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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第4章 ギリギリ正義
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グッドディードの盗み聞き

 気になっている脱走犯の報道が終わり、退屈しのぎに盗み聞き魔術を発動した。


 唐梅が口をつけなかったコップをとり、水を飲み干すと、ガラスのコップの底を耳に近づける。こうすれば、適当に遠い場所にいるものの話を盗み聞きできるのだ。下の下魔術だが、グッディはこれをよく使う。


 昨日の実験でも”主人が迷子になった”ので、探してやるためにこれを用いた。コートの中には魔術に用いる小道具がたくさん入っており、コップなどは三つもある。

 最初は悪戦苦闘している声を聞き楽しんでいたが、さすがに唐梅が死にそうになったので登場してやった。


 主人が死んだところで困りはしないが、なかなかどうして、唐梅は他のものと違う気がする。


 年端もいかない少年の割に、この自分に攻撃してきたり、何を考えているのかわからなかったりと、潜在的なものを感じさせる。


 自分以上ということはないだろうが、どれほどの悪属性か、当分は見極めてやろうと決めた。


 臆さずこちらを殺そうとしてきた時は興奮したが、主人としてまだ認めたわけではない。酒を飲まないところは気に入っている。


 考えるのをやめ、椅子に座る。盗み聞きに集中した。


 対象を切り替え、面白そうな話をしているものを探していたら好削(すざく)限武(げんぶ)の怪しい会話にたどり着いた。上の階の部屋にいる二人が、盗み聞きに気づかず話を続ける。


『――いいや、今のところ、それらしいものはいないな。他のフィールドにいるのだろう』


『あのキリンだ。まず死んじゃあいねえ。いずれ、戦うことになる』


 キリン、キリン。脳内で名前を繰り返す。魔術書を読み漁った関係で、日本語もちょこちょこ読めるグッディだが、二人の言うキリンが何なのかわからない。


 サイバーセカンドの翻訳ツールは、固有名詞に対しては働かない。仮に日本語でリンゴとNPCに名づけた場合、他国の被験者にアップルとは翻訳されない。


 リンゴはリンゴ、グッドディードはグッドディードのままだ。キリンは翻訳されていないことから固有名詞、おそらく被験者の名前だろう、と推測する。


 そこではたと気がつく。日本語で考えるからややこしいのだ。スザク、ゲンブ、キリンときたら、中国か。キリンとは中国語の麒麟(チィリン)ではないか。


『――……で、唐梅をどう思う』


 限武の声がグラスに響く。


『何とも言えんな。一体どっちなのやら。書類上は白だ。実物は……何を企んでいるのか。見えてこない。計算高いと思えば、妙に衝動的だ。かと見れば、今日の様子じゃただの優男。回復薬は寄こせと言ってくると踏んでいたんだがな。気遣いのある仲間から自分に渡してくるよう、誘導している風にも見えるが』


 グッディは笑う。唐梅の企みに好削は勘づきながらも、具体的に気づいてはいない。


 テレビに夢中で協定のものに何を話していたのか知らないが、唐梅は企みを隠し、好削をうまく撹乱したようだ。主人の評価が上がる。


 かくいう自分はというと、唐梅の”仲間を騙している”発言の真意にはとうに気づいている。だから唐梅が眠りこけている間、勝手に行動を起こさず待ってやったのだ。


『――何にせよ、唐梅とグッドディードは要監視対象、だな。紅白と、他のもんにも目を光らせろ』


『まるで私だけが監視するような口ぶりだな』


『俺はほら、目があれだから』


『ジジイめ。老眼だとはっきり言え』


 二人が普段の軽口を叩き始めた。コップを耳から離し、せっくなのでコートにくすねる。


 あの二人は、おそらく味方ではない。目を細め、考える。この電子空間の事情に精通しているもの言いだが、一体何者なのか。


 血がわき立つ。武者震いを起こす。協定には反対したが、面白い。仲間の中に、明らかな敵が潜んでいる。主人の企みは、果たしてうまくいくだろうか。


 静かな部屋で一人、先のことを考えると、グッディは楽しそうにほくそ笑んだ。






「他の日本の被験者はどうなったかな。生きてるなら、この休憩用フィールドのどこかにいるはずだけど……」


「見ないな」


「このフィールド、結構広いよ。ここからは見えないけど、ちょっと歩くと海もある」


「遠くにいるだけならいいけど」


「死んで……ないよな」


 仲間達が廊下で話している。奥には、グッディの待つ自分の部屋がある。唐梅は歩を進めた。


「この先もヤバい被験者とNPCが続々と現れるのか……ハイラントショー、だっけ? とんでもなかったよなあ、あいつら。バンバン銃撃ってきてさ」


「ゲーマーでしょ。それもFPS勢。ゲームがしたくて来たんだよ~」


「……紅白さんも、ですか? ゲームの世界を楽しみたくて、ここに?」


 通りすがりに会話に入り、紅白に気になっていたことを聞く。


「……えっ、えっ? い、いやいや、僕は……。僕は別に……ゲームとか、別にだから……」


 嘘だ。紅白がゲームに詳しいのは明白だ。


 聞いてもいないことをベラベラ喋る時と、質問されて押し黙る時のアンバランスさに違和感を覚える。紅白は何かを隠している……と思うのだが、どうにも確信を抱けない。


 仲間が紅白の名前に反応していた点と、紅白が食事の心配をしつつも大事なポイントを使って衣装変更し、面で顔を隠しているところを見る限り、やはり有名人なのではないかと思っていた。


 ただ、そうだとすると疑問点がある。


 顔を隠す一方で、自由に決められるはずの被験者名を「紅白曼珠沙華」と登録したことだ。


 仮に紅白が有名人なら、自分の芸名とは結びつかない名前を登録するだろう。だが、仲間は名前に反応していた。これは芸名そのものか、近い名前を登録していることにならないか。


 紅白を不気味に感じる。彼が隠しごとをしているからではない。何か隠していることを、隠さないところが不気味なのだ。隠し方が中途半端で、疑念の目を向けられると見るからにうろたえてみせる。紅白の人物像をいまいち掴めない。


「……ん?」


 紅白の気になる部分はまだあるが、それよりも、奥の自分の部屋に目を向ける。


 妙だ。景色が変わっている気がする。


 早足で部屋の前へ向かう。ドアの前に置いてあったはずの植木鉢や、椅子の位置がずれている。何より、ドアノブがおかしい。


 か、か、鍵が壊れている。鎖も、外れている。


 異変に気づいた仲間とともに、部屋に入る。もぬけの殻だ。


 ……またか。またなのか、グッディ。


 いや、やつが大人しくしているはずがない。わかっていたことじゃないか。それなのに自分は、グッディ抜きで仲間と話し合えるチャンスを前に、魔術師相手にただの鍵や鎖を使うという愚策に出てしまったのだ。


 まぬけなギャンブラーの隙をついて、またもジョーカーが散歩に行ってしまった。






 仲間と手分けし、二度目となる殺人鬼捜索を行った。今回はすぐにグッディが見つかった。


 一階のホールに簡易的な食事スペースがある。コーヒーメーカーなどが備えつけてあり、休憩できる空間だ。

 お腹が空いたと言っていたグッディに何も食べさせていないことを思い出し、ロビーの案内図を確認すると、唐梅は真っ先にここに向かった。


 読み通り、グッディはいた。手にナイフを持って。


 陽子を始めとした女性陣が、ホールのカウンターで談笑している。その後ろに、ニヤついた殺人鬼。手のナイフをひらひらと振り、無警戒な彼女達に忍び寄る。


「――グッドディード!!」


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