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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第4章 ギリギリ正義
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悪属性と判断します

「グッディぃいいい~っ!!」


 紅白が歓喜の声をあげた。


 赤い光線が飛んできた方向、平野の先に、黒いコートの大男が立っている。青ざめていた仲間達も、本来ならこわくてしかたのない殺人鬼の登場に、安堵の色を見せた。

 グッディの姿を確認し、応戦しようと飛び出した限武(げんぶ)好削(すざく)が後ろにさがる。


「気安く呼ばないで下さい。ご主人様でもないのに」


 思わず愛称を使った紅白に、仲間に愛着などかけらもないグッディがぴしゃりと告げた。首を動かし、のん気に平野を一瞥する。ちょっと放っておいた間に、首から血を流して敵と取っ組み合っている主人を見つけ、肩をすくめる。


「ご主人様、弱いですね。それとも作戦ですか、これって」


 自分の長い散歩を棚に上げた相棒のセリフに、思わず笑う。


「嫌味だな……グッディ。……ああ、作戦だよ。君がなかなか出てこないからね、ピンチを演出したん……うわっ!?」


 突然、取っ組み合っていたハイラントが方向転換し、逃げだした。戸惑う唐梅を置いて、自分の仲間達の元に駆け寄ると、忙しなく軍服を触り始める。


「――……どっ、どど、どこが破け……一体どこが破けて……っ!!」


「隊長、落ち着いて! どこも破けてないって~」


「ほ、ほ、本当だろうなぁああっ!! お、お前ら、俺の引きしまった肉体見たさに、嘘ついてるんじゃないだろうなああっ!!」


 赤毛の女性を筆頭にした女性隊員が慰めるのをよそに、ハイラントはとり乱す。リーダーの異常な混乱ぶりに、部隊は一様にやれやれと首を振る。


 服が破けていないことがわかると、今度はボタンが全て閉まっているか確認し始めた。そんなハイラントを見て、動揺させようと画策した当の自分も困惑する。


 軍服を大事にしている、という程度の認識だったが、あの様子からしてどうもそれだけはない。服、というより露出を気にしているのか。と彼の病的な様に結論づける。


 ハイラント部隊がリーダーの混乱に対応している間に、落ちている血桜を拾い、グッディの元へ駆け寄った。


 相変わらずニヤニヤと不気味に笑い、血の流れる首を見ている。身勝手な相棒に言いたいことは山ほどあるが、まず他に確認しなければならないことがあった。


 情報パネルを出し、ポイントの残高を見る。


 ポイントは増えていない。つまり、グッディはクエストをやっていない。誰も殺していないということだ。

 先ほどの発言からしても、指示通り悪属性を探し回っていたことが窺える。息をつく。


「……どうやら、勝手にクエストを進めたりはしていないようだね。何だ、結局殺しができるなら悪属性だけでもいいと納得したのかい」


「納得してません」


 天の邪鬼なグッディの回答を聞きつつ、背後を振り返った。


 スカーが未だ、演舞を口にくわえて平野の真ん中に佇んでいる。目をパチクリさせて、軍服のチェックに余念がない主人を見守っている。


「……グッディ、あの龍と戦えるかな。レアリティ八十、だそうだよ」


 グッディは首をかしげた。


「いいんですか、ご主人様。あのドラゴン、悪属性じゃありませんよ。どう見ても」


「ああ……あの龍は、主人の言うことを聞いているにすぎない。ただ……あの人達は……」


 敵部隊の方に向き直る。何がショックなのか、ハイラントはまだ頭を抱えている。

 岩に隠れる仲間達と、敵部隊との間に、グッディと二人で立つ。


 再び戦いを始める前に、ハイラント達にも重要なことを聞かなければならない。


 動く度に痛む首を押さえ、背筋を伸ばす。血の付着した手を離すと、平野の地に赤いしずくが一滴、二滴と落ちていく。


「……確認したいことがあります」


 こちらの呼びかけに、部隊がこちらを見た。ハイラントは背を向けたまま反応しない。


「そちらは、武器が潤沢に揃っていますね。ログインボーナスで手に入れられる量ではない。……ひょっとして、他の被験者を殺して奪ったものですか」


「ろ(かく)は基本だろう」


「あんたらの武器も、回収させてもらうよ」


 ハイラントの仲間が、淡々と答えた。


 唐梅の瞳が暗くなる。血桜を持つ手に、力が入る。顎を引き、数秒考え込む。

 堅い表情でハイラント達を見すえると、冷淡な声音で告げる。


「……申し訳ありませんが、あなた方を、悪属性と判断します」


 背中に、押し殺せていない笑い声。主人の放った言葉に、グッディが嬉しそうに笑っている。


 地面にうずくまっていたハイラントが、顔を上げた。のろい動作で、やっとこちらを見る。


「……主将戦を再開していただけませんか。一番強いNPCを出せ、とおっしゃいましたよね。こちらから新たに、僕の相棒……グッドディードを出します。属性は、悪。レアリティは……そちらが勝ったら、お教えします」


 ハイラントが眉を上げる。興味ありげに唐梅の表情を窺い、その後ろに立つ黒ずくめのNPCを確認する。


「悪属性同士、食い合いましょう」


 悪、というには覇気の足りない唐梅の代わりに、後ろでグッディが不敵に笑う。荒野の晴天を浴びて、逆光の中、白い歯を浮かび上がらせた。


 再戦の提案に、ハイラントがようやく、のそりと腰を上げる。


「……食い合い……ね。別にどうだっていいが……からかわれた仕返しくらいは、してやらなきゃいかんよなあ」


 虚ろな、それでいて挑戦的な目を光らせる。部隊の仲間達も、同様に戦意を宿して、唐梅達の姿を視界に定めた。空気が変わるのを感じ、一歩さがる。


「……被験者の相手は、僕がする。NPCは君だ。分担だよ。いいね、グッディ」


 ハイラント達から目をそらさずに、後ろのグッディにささやく。


「ご主人様には無理です。被験者も何もかも、私が全部殺せます」


「できる、できないの話をしているんじゃないんだ、グッディ。僕は何も、君だけに殺しをやらせるつもりはないというだけだよ。僕ら、素晴らしい相棒だ。そうだろう、グッディ。何たって僕達は、ただの相棒じゃない。……共犯者だ。あの時から。あの一時から」


 重たく言葉を吐く。


 沈み込むようなその声を聞くも、グッディは特に深く考えない。自分と同じ悪属性の主人が、殺しをしたがっているだけと前向きに解釈する。


 空気を変えたハイラント達が、ぶつぶつと何事かを呟いた。はっとして、耳をすます。うまく聞きとれない。声は聞こえるが、その言葉の意味を理解できない。


 英語を喋っているのかと、一瞬翻訳ツールに不具合が生じた可能性を疑うが、それが英語ではなく、聞き慣れない専門用語であることに気がつく。


 ゲーム用語とも軍事用語ともつかない言葉を互いに送り合い、ハイラント部隊が武器を構え、NPCを引き連れて散り始める。


「位置につけ。CQBに移行。女はお前らだ、間違ってもこっちに寄こすな。俺は引き続き、スカーと動く」


 ハイラントの指示に頷き、素早く部隊が行動を開始する。仲間を狙いにいったことだけ読みとると、唐梅は自分の仲間に向かって叫んだ。


「皆さん、今度こそ逃げて下さい! ここは、僕とグッドディードの二人で……」


 言いかけて、目を見張る。平野が火で覆われる。仲間達の後ろに、炎の壁が立ち塞がった。円を描いて燃え広がり、退路を断つ。


 どしゃり、とどこからか音がする。


 音のした方を振り返る。スカーの口から開放された演舞が、火の粉舞う平野の地面に転がっていた。

 上を見上げると、スカーが今しがた吐き出した火炎の残りを、口からあふれさせている。


 炎属性か。スカーの攻撃によって炎に囲まれた辺り一帯を確認し、冷や汗をかく。仲間を逃がそうとした矢先に、先手を打たれてしまった。ハイラントの容赦ない戦略に、背中が冷たくなる。


 炎から離れようと仲間達が岩から飛び出す。それを狡猾に狙い、ハイラント部隊とNPCが武器を手に走り寄る。


「グッディ!! 牽制攻撃を……うわあっ!」


 体が浮き上がる。自分がいた場所に火球が飛び込み、地面に当たって弾けた。


「待て! 待ってくれ、グッディ!!」


 制止を聞かず、主人の体を抱え、グッディは平野の空に浮上する。


 オレンジ一色だった景色が、青く変わる。熱風が消え、荒野の涼しい風が体に巻きつく。何度となく経験した状況に、ひどく焦りながら下を見る。仲間達が敵部隊に襲われている様子が、はっきりとうつった。


「うわ~ん、ヤバいよ~負けちゃうよ~!」


 情けない声をあげ、紅白が鉈を振り回す。紅白のショッキングな見た目に、ハイラント部隊もいくらか驚いているが、冷静に対応している。

 好削と限武や、仲間のNPC達も応戦し、敵部隊と果敢に戦っている。


 後衛を任せた仲間が早速頑張ってくれていることに、唐梅は全く喜べない。急いで自分を抱えるグッディに指示を出す。


「グッディ! 僕を下ろしてくれ! そうしたら、君はハイラント達のNPCを攻撃するんだ!」


「嫌です」


「えっ!? な、何だって!」


 この期に及んでまた、そんな名前は嫌だの何だのと言い出すのではあるまいな、と構える。


 しかし、予想とは違うグッディの返答に、相棒がただの天の邪鬼ではないことを思い知らされた。


「救うだとか守るだとか、ごめんです」


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