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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第4章 ギリギリ正義
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グッドディードと痛快な仲間達VSハイラント部隊 苦儡屋演舞の狂演舞

 不躾な問いかけに、どう反応してよいやらわからない。

 呼ばれたままに平野に飛びだした唐梅に、後ろから仲間が何か言っている。唐梅は耳を貸さない。


 軍服の相手の動向に気をつけながら、情報パネルを出す。


 パネルに一度英字が表示され、『ハイラントショー』とカタカナ表記に切り替わる。これが、目の前の被験者の名前らしい。

 適度な長さの金髪に、ほりの深い顔、ブルーの目。どう見ても外国人だ。


 その後ろに控える同じ軍服を着たハイラントの仲間達も、赤毛の女性や黒人の男性など、多種多様な人種が集まっている。

 なかなか男前なハイラントがリーダーだからか、仲間の半分ほどが女性で、目鼻立ちのしっかりした美女が多い。


 一方で、NPCの姿が全く見当たらないことに疑問を覚える。


 ついでに向こうにある岩壁を確認するが、ちらりと見えた龍のしっぽは、もう消えている。グッディの姿もない。


 観察をやめ、姿勢を正す。警戒は解かず、血桜に手をやる。痛む足を引きずりながら、まずは丁重にお辞儀をした。


「……初めまして。唐梅と申します。年は十七です」


 どよめきが起こった。ハイラントの仲間達が、物珍しそうに車の影から身を乗り出し、唐梅を見る。実年齢に驚いているのもあるだろうが、どうもそれだけではない。ハイラントが前のめりになり、興奮を隠さずまくし立てた。


「ひゅーっ! 見たか、今の! 侍だ!!」


「侍!! 侍!!」


「本当にお辞儀してやがる、戦う前に!」


 ハイラント達のからかいだか称賛だかを受け、その興奮の理由を思い知る。

 自分の持つ刀や、日本式の挨拶に感動しているのだ。まさに外国人らしい反応だが、熱狂についていけない。


 温度差はありながらも、ハイラントらの言葉がしっかり日本語に変換されて聞こえているのは、情報パネルで設定した翻訳ツールが働いているからか。


 そう呆けていると、ハイラントが手を軽くあげて、自分の仲間に合図を送った。車や岩影に隠れていた軍服の仲間達が、ぞろぞろ足並みを揃えてハイラントの横に一列に並ぶ。


 血桜を引き抜こうと構えているのを気にもせず、手に持った銃を小脇に抱え、彼らは敬礼した。


「我々は、ハイラントショー率いるハイラント部隊。……そちらの部隊の名は?」


 突然がらりと雰囲気を変えたハイラント達に戸惑う。


 ふざけている様子はなく、ハイラントは至って真面目な顔つきでこちらの返答を待っている。待ちながら、軍服のボタンが全部閉まっているかチェックしている。


 しかし、答えられるような部隊名などない。そもそも部隊ではない。


「……グッドディードと痛快な仲間達~」


 岩に隠れている紅白が、返事をしかねる唐梅の代わりに、勝手に命名してハイラントに答えた。


「――これより、グッドディードと痛快な仲間達対ハイラント部隊の決戦を行う!」


 真に受けたハイラントが張った声を出す。はっとする間もなく、ハイラント部隊が一斉に銃を構える。発砲しない、という発言の期限が今をもって切れたらしい。


 反応の遅れた唐梅に、大きなものがぶつかる。その物体に押され岩の影に倒れると同時に、大量の発砲音が放たれた。ビスビスと岩や平野の地面に、穴を増やしていく。


 けたたましい銃声に耳をやられそうになる中、学ランの下に着ているシャツに、ひんやりとしたものが滑り込む。シャツの中で素肌がまさぐられる。


「ぎゃあ!」


「おっとすまん。うっかり手が」


 本当に偶然か怪しい好削(すざく)の手をシャツから追い出す。銃弾からかばってくれたのはいいが、その代償にセクハラされるいわれはない。


 頭のおかしい好削の変態行為に抵抗していると、銃声が止む。

 仲間は岩に隠れ続け、ケガをしているようなものはいない。


「……ったく、当たりゃしねえ。全然FPSじゃねえじゃねえか」


「それ、結局デマでしたからね」


 銃を撃ち、まるで家でゲームをしている感覚でハイラント達が愚痴をこぼした。


「まあ、一人称視点には違いない。――……出てこい。唐梅。そしてその仲間達。……出てこないなら、あぶり出すまで」


 ハイラントの冷淡な声。続く銃声。仲間が悲鳴をあげ、身を伏せる。一向に止みそうにないハイラント達の猛攻に、好削を押しのけて前線に出ようと暴れる。


「落ち着け、唐梅! 相手は銃だぞ、冷静になれ。弾がつきるのを待つんだ」


「いいえ、あの人達どういうわけだか車を持っています……! 車内にも武器を大量に抱えている、おそらく他の……殺した被験者達から奪ったんです! ログインボーナスで手に入る量じゃない」


「それでもつきるのを待て」


 細い腕からは想像もできないほど力の強い好削に、押し込められる。

 頭では好削の言っていることを理解し、しかし仲間の怯える姿にいても立ってもいられない。とにかく自分が前に出なければと、好削の腕から逃れようとする。


「――!? ……た、たたた隊長!! あ、あそこにいるファッキンな野郎は――……!!」


 ファッキンな野郎? と首をかしげる。


 ハイラントの仲間が発砲をやめて、指をさす。軍服のボタンをチェックし、ハイラントが仲間の指さす方に首を回した。


 大きな岩がそびえ立つそのてっぺんに、青空の逆光を受けて何かがいる。


 和傘に顔を隠し、腰の帯に刀をくくりつけた、正体不明の侍風の格好をした人物。仰々しく傘を持ち上げると、明らかに人外のその顔を見せて、見得を切る。


 いつの間に岩影を飛び出したのか、まさに侍という出で立ちの演舞の登場に、ハイラント部隊がわいた。


「何だあのファッキンなNPCは!! 人間じゃなかったのか!」


「病的!!」


「病的にクール!!」


 ハイラントらの歓声に、何か翻訳がおかしいと感じる。翻訳ツールの精度を疑うが、演舞がいたことを思い出して、肩の力が一気に抜けた。好削への抵抗をやめる。


 今残っている他のNPCは、動物型のものが多い。銃弾を受けたらひとたまりもないだろう。だが、演舞なら――。


 主人である限武(げんぶ)が、唐梅に頷く。そして、演舞に「行け」と手を振った。


 演舞が傘を閉じ、岩から飛ぶ。重量のある体で平野に軽い地響きを起こすと、俊敏な動作でハイラント達がいる方へ走りだす。


「侍来たぁああーっ!!」


 危機に喜ぶハイラント部隊が銃を構え、演舞に向かって容赦なく銃弾を放つ。銃弾が飛ぶ中でも足を止めない演舞が、閉じた傘を一瞬で開き、それを猛スピードで回転させた。


 ――ガガガガガッ!! 


 傘に弾かれた弾が、四方八方へ散る。跳弾が構わずこちらにも飛んできて、顔をかすめる。唐梅達が演舞の周囲を顧みない防御に絶叫する間、ハイラント部隊は狂喜に近い大歓声をあげた。


 一体何でできているのかわからない傘をバッと横へやり、演舞が顔を出す。むきだしの歯を、ガパリと開けた。口内が顕になる。口の中が青白く光り、そこに留まる丸い光がキリキリ震える。


「えっ」


 ハイラントが戸惑うと同時に、演舞の口からレーザービームが放たれた。


 青い可視光が平野を一直線に焼き、その直線上にあるハイラントらの大事な車に直撃する。車の表面を赤く燃え上がらせ、真っ二つに焼き切った。

 先ほどまで車だったものから急いで離れると、ハイラント部隊が今度こそ悲鳴をあげる。


「刀使えよぉおおお!!」


 ハイラントのもっともらしい叫びに応え、演舞が自身の腰に携えている刀を引き抜いた。鞘から取り出されたことで空気に触れた刃が、ビリビリと電気をまき散らす。帯電する刀を、ハイラントに向けて構える。


 その刺激的な様に、ハイラントは武者震いを起こす。

 演舞が鋼鉄の足で近づき、斬りかかろうとする。


 後退し、持っていた銃を放ると、ハイラントが仲間から大きなパイプのようなものを受けとる。ハイラントが構えたその武器に、限武が岩から身を乗りだし目を見開いた。


「――バズーカぁ!? みんなふせろお!!」


 絶大な衝撃が平野を揺らす。


 点在する岩がいくつか砕け、自分と好削を隠してくれている岩が半分に欠ける。爆発音から耳をかばうが、度重なる銃声ですでにじんじんと痛む。煙が立ち込め、仲間が咳き込む声を聞く。


「……演舞!! 演舞は……!」


 半分になった岩から顔を出し、好削と一緒に演舞の姿を確認する。辺り一帯に砂ぼこりと小さな火が舞い、そこに数人の人影が見える。


「……マジかよ。このNPC、レアリティいくつだ」


 ハイラントの呟き。


 煙が風にさらわれ、平野が姿を現した。ハイラント部隊が銃を手に囲むその中心に、演舞が立っている。何のことはないという顔で、少し裾の焼けた着物を風になびかせ、ハイラントらの向ける銃にも臆さない。


 慎重に銃口を定めるハイラント部隊に、演舞がいきなりぶんぶんと刀を振り回し始める。


 うわああ、と叫びながら軍服の集団が方々に散った。演舞の危険な”演舞”に阿鼻叫喚し、逃げ回る。その様に、唐梅は一人で何とかしなければと急いていたことがバカらしくなった。


 グッディがいなくとも、今は仲間とそのNPC達がいる。仮にうまくコントロールできないことがあっても、演舞やみんながいるなら、何とかやれるのではないか。


 そう考え、岩影から演舞を応援する。が、ふくらむ期待と裏腹に、背中に張りついた嫌な予感が消えないことに気づく。


 何か忘れている。グッドディードのことではない。あの非常識な相棒のことは、忘れようがない。何を忘れている?


 そう、おかしい。この状況はおかしいのだ。なぜ他国の被験者、つまり人間相手に、NPCが立ち向かっているんだ?


 ――ォォオオオオオオン……!!


 耳にこびりつく雄叫び。嫌な予感が背中を駆け上がり、嫌な確信に変わる。


 平野の彼方から、雄叫びとともに群れの足音が響いた。どんどん大きくなり、こちらへ近づいてくる。少し前に岩壁の上で感じた、風と振動。


「あっ、リリー! 帰ってきたのか!」


「グッドディードは!? ……って……」


 仲間達が捜索から戻ってきた自分のNPCに声をかけた。そして、青ざめる。その後ろからゆっくりと、巨大な影が追ってきている。


 大きな目を光らせて、岩壁と岩壁の間を狭そうに泳ぐ、鉄の龍。その下に、似た鉄の体をした、数多の兵器に見えるロボット型のNPCの大群を引き連れている。


 龍の登場に、演舞が静かに動きを止めた。凶暴な侍が落ち着いてくれたことに一息つくと、ハイラントは軍服がしっかり閉じているかチェックする。それを終えると、頭上にたゆたう龍の名を呼んだ。


「偵察は終わったか、スカー。と、NPC部隊。また変なもん食ってねえだろうな」


 龍に追われながらも無事に戻ってきたNPC達を確認し、その中に自分のNPCがいないことも確認すると、唐梅は慣れることのない絶望の波に溺れそうになった。


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