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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第4章 ギリギリ正義
19/44

悪属性の保障する協定

「あなた方をお救いします」


 後ろでグッディが歯軋りをする。

 唐梅の発言に戸惑う被験者達。すでに実験開始のアナウンスが流れた荒野に、風と静寂が流れる。


「……救う、って……どういうこと?」


 昨日の実験でイノシシのNPCを失った女性が、遠慮がちに声をあげた。


 唐梅は荒野を見渡す。まだ自分達以外の被験者やNPCは現れていない。実験は始まっているが、特に争いの音や振動は伝わってこない。


 それだけ確認すると、立っていた小岩を降りて、被験者達に近づき、視線を合わせた。


「……これから世界中の被験者、NPCと戦うことになります。当然、強いものが残っているはずです。これは、世界規模の実験です。まだまだ被験者がいると考えていい。つまり、実験もまだまだ続く」


 不安げに数人が頷く。険しい表情で聞いているもの、俯いて自分の足元を見ているもの。被験者達の間に、重たい空気が漂う。


「協定を結びませんか」


 そう言うと、被験者達の反応を待たずに情報パネルを出した。自分のNPCの情報ページを表示する。


「NPCの情報を出し合いましょう。レアリティを隠すことに意味はないと、昨日の実験でよくわかりました。情報パネルでは、自分の情報以外は相手の名前くらいしかわかりません。この先、僕達はお互いを警戒し自分を隠すのではなく、情報を出し合い、協力していくべきです」


 被験者達が次々と顔を見合わせる。悪属性のNPCの主人だった被験者達は、ふんと鼻を鳴らす。唐梅の提案に異を唱えはしない。が、進んで提案に乗ろうとするものもいない。


 ……やはり、そううまくは運ばないか。


 まして自分とグッドディードは、昨日の実験で悪属性のみとはいえ、多くのNPCを無残に殺した。最初の実験の噂まで被験者達には流れてしまっている。そんな凶悪極まりないコンビが信用を得、協力してもらうのは、至難の業だろう。


「いいぜえ、坊ちゃん。唐梅、だっけか? 出し合おうじゃねえか。NPCの情報をよお」


 重い沈黙を破って、男性が前に出た。その声に振り返る。


 奇抜な髪型の老齢の男性。昨日の実験で、腕が折れそうと言いながら自分を受け止めてくれた人物だ。確か、玄武だったか。


「来い、演舞」


 男性の呼び声に、奥の岩山の上から何かが飛びだした。うわあ、と被験者達が驚き、距離をとる。


 ガシャン、と機械の立てるような音が地にぶつかる。飛び出してきたものがゆっくりと地面から起き上がり、二本の足で立つ。


 人間? 被験者……か?


 演舞と呼ばれたものの姿に目をやる。赤い和傘をさして、黒っぽい紺の着物を着ている。荒野の広い青空の下、和傘の影に隠れてしまって顔の様子がわからない。着物の細い帯が腰にあることからして、男性に見える。


 帯にくくりつけた刀に鎖が巻きついている。それをジャラジャラ言わせながら、演舞がこちらに歩み寄ってくる。

 被験者達が近づかれた分だけ離れる中、老齢の男性の隣に立つと、演舞が和傘を閉じた。


「……あっ、NPC!?」


 先ほどの女性が、演舞の顔を見て驚いた。唐梅も同様に驚く。グッドディードといい、紅白といい、どうもまぎらわしいものが多い。


「人間だと思ったか? 傘さしてるとわかんねえよなあ、こいつ。苦儡屋演舞(くぐつやえんぶ)だ。俺のNPC。かっけえだろ?」


 紹介に合わせて、演舞が閉じた傘を華麗にばさりと差し直し、歌舞伎役者のように”見得を切る”。おおお、と被験者達が感嘆した。風で着物の裾と銀の長髪が揺れ、様になっている。


 銀とは言っても、つくりものめいたピアノ線にも見える髪だ。見得を切った手の平は紺色をしており、つやつやとしていて、関節部分がはっきりと見えている。


 ロボット型のNPCだ。顔を見るとはっきりわかるが、その主人の言う通り、傘で隠れ、首から下だけ見えている状態なら人間に見えてしまう。

 紺色の顔は唇と呼べるようなものがなく、ギザギザと角張った歯がむき出しになっている。怪しく目が光っており、硬そうな長い前髪が顔に垂れている。


 昨日の実験にいた記憶がないが、人間に見えて気づかなかったのかもしれない。隣にいる紅白に目をとられていたり、グッディに斬りかかろうと気を張っていたせいもある。


「属性は電気。レアリティは七十七だ」


「七十七!?」


「すげえ!!」


 称賛が飛ぶ。被験者達が一様に驚いている。


 どうやら、七十七以上のレアリティのNPCを持つものは他にいないようだ。誰もが演舞に驚きと好奇の目を向けている。気分をよくした男性が、得意げに続けた。


「レアリティ八十と七十七じゃ七十七の方がいいよなあ。ラッキーセブン。ツキがいい」


「レアリティ八十の方がいいに決まってるだろ、ジジイ」


 赤いマフラーの女性が冷徹に返す。冷たい、というよりは、気心の知れた友人相手にいつもの調子で返すという空気だ。


 演舞の登場にわいた効果もあってか、他の被験者が数人前に出た。各々自分のNPCを隣に侍らすと、周りの被験者に向けて紹介を始める。


「俺のNPC、リリーだ。多分猫型……のNPCかな。演舞と同じ、電気属性。レアリティは四一」


「私のNPCはレアリティ五十。水属性よ。だからマリンちゃん」


 水属性に電気属性。今のところ悪と正義しか属性を知らない唐梅には、新しい情報だ。

 続いてまた数人の被験者が前に来ると、NPCの情報を開示していく。



 一通り聞き終わり、老齢の男性が腰を曲げ、鋭い目で辺りを見回す。一向に出てくる様子のない被験者達を見る。情報を出して協力するつもりはないという姿勢を崩さず、それぞれ岩山に背を預けたり、腰かけたりしている。


「……さて。情報を出してもいいってやつはこれくらいみたいだぜ。坊ちゃん。……ところでここには、うちの演舞よりもっと御上(おうえ)がいるみてえなんだけどなあ」


 男性の含みのある言い方に、被験者達が唐梅を見た。

 もっと御上。視線を受けて、唐梅は後ろでずっと不機嫌にしている自分のNPCを振り返る。


「さあ、グッディ。おいで」


 機嫌悪く口をいじっているグッディが、こちらをにらみつつも指示に従った。この青空の元では浮いてしょうがない黒ずくめの怪しい男が、唐梅の隣に立つ。


「……僕の相棒、グッドディードです。属性は、悪。レアリティは――……」


 注目が集まる。岩影にいる被験者達も、耳をすました。大人しくしていた紅白がこのタイミングで前に出てきて、身を乗り出す。


「――……百、です」


 荒野が静まり返る。被験者達が、目や口を大きく開ける。


「……ひゃ、く……?」


「レアリティ……百、だって? ……本当に?」


「……どうぞ、ご確認下さい」


 自分の情報パネルを回転させ、被験者達に見えるようにする。パネルに顔を近づけ、皆が星の数を数える。真っ先にパネルの前に駆けつけた紅白が、星を数え終えた手を大きく震わせた。


「……百だぁああああ~!! レアリティ百~っ!! えーいいないいなー! 唐梅くんめっちゃガチャ運いいじゃ~ん! レアキャラいいな~!!」


 紅白が唐梅の肩をぐいぐい引っ張って、揺らす。


 顔を引きつらせて、曖昧に笑う。紅白は確か、グッディの攻撃を見て引いていたはずだ。レアリティを知った途端、ころっと態度を変えている。何と切り替えの早いことか。


 羨ましがる紅白をよそに、他の被験者達は驚きのあまり声が出せずにいる。悪属性の主人だった被験者達も、昨日の実験の惨敗の理由を目の当たりにして、眉間にしわを寄せていた。


 紅白の反応にグッディは少しだけ機嫌を直したのか、いつものニヤニヤ笑いが戻ってきている。


「……皆さん、ご協力ありがとうございます。これで……一部の方を除いてNPCの情報が出そろいました。そこで提案なのですが……」


「ま、待って!!」


 最初に反応してくれた女性が手をあげる。注目がいく中、女性がおずおずと切りだした。


「……さっきから、私達……NPCが死んじゃった被験者は置いてけぼりみたいな空気なんだけど……。協力していく、ってつまりNPCの残ってる人達だけで……ってことよね?」


「あっ、それ! やっぱりそうなの? 僕もNPCもういなくってさあ~。僕らみたいな被験者は、協力関係には入れてもらえないの……?」


 自分のNPCを食べちゃった疑惑の残る紅白が、女性の隣に来て同調する。つられて、NPCを亡くし一人で実験に参加している他の被験者達も頷く。


「いいえ、そんなことはありません。それに関しては、今お話しようと思っていました。……これは何も、NPCを亡くした方だけでなく、全員に向けての提案なのですが……」


 全員の視線が自分に戻ってくる。次の言葉を出すのに抵抗を覚える。


 このやり方は、正直言って好きではない。できることなら、こんな提案はしたくない。

 心の中ではそう思い、グッディの手前、表情を変えないことに力を注ぐ。意識して、冷淡な声を出す。


「……協定、と言いましたが、これはただの協力関係ではありません。……僕達二人と協定を結んでいただいた場合、その被験者の方からは、ログインボーナスをいただきます」


 横で聞いていたグッディが首をかたむけ、唐梅に流し目を送った。女性が紅白と二人、口に手を当て考える仕草をする。


 老齢の男性が唸った。怒りや不快、といったものではなく、試すように唐梅の動きを見張っている。

 赤いマフラーの女性は、腕を組んで前髪から覗いた目を光らせている。この女性も近くにNPCの姿がない。老齢の男性の隣に立ち、二人して唐梅の動向を見ている。


「ほれみろ。何かあると思ったんだよ、このガキ」


 悪属性の主人だった被験者が、おもむろに座っていた小岩から立ち上がり、こちらにやってくる。黒い大トカゲのNPCを連れていた男性だ。


「忘れたか? こいつ、最初の実験で他の被験者とNPCを皆殺しにして、一人勝ち上がったんだぜ。なあ、そうだろ」


「……二人、です」


「こいつのNPCもとんでもないが、こいつは多分もっととんでもねえ。電子空間で殺戮ゲームを楽しむ悪の覇者ごっこ。協定だあ? 恐怖政治の間違いだろ。サイコなガキの遊びに付き合わされようとしてんだよ、お前らは」


 返す言葉もない。黙って男性の話を聞く。隣のグッディの変化にだけ気を配る。男性の発言に、特に怒っている様子はない。


「……ログインボーナスを提供する代わり、何が貰える。その協定に参加することのメリットは何だ。当然、あるんだろう」


 マフラーに半分顔をうずめ、光る目で女性が問う。そちらに顔を向ける。


「はい。ログインボーナスを提供していただく代わりに、レアリティ百のNPCに守ってもらえる……という協定です。いただくログインボーナスは主にレアリティの高いもの。武器やアイテムを優先的に譲って下さい。そうしていただけるなら、お守りした際にクエストAで加算されたポイントは、お分けします」


「えっ、いいの?」


 紅白と、その隣の女性が口に手を当てて驚いた。他の被験者達も、曇らせていた表情を変える。反論をしていた男性が、その様子に顔をしかめた。


「おいおい、騙されんなよ。結局のところ、お前らコンビが優勝するための戦略だろう。NPCが死んだ連中の分も獲物を独り占めして、ポイントを大量に稼げる。分ける、であって全部くれる、じゃねえ。こいつらが一番得するようにできてんだ。レアリティ百のNPCがいるんだから、そんな細々(こまごま)した戦略立てなくったって勝てると思うぜ? なのにそこまでして賞金が欲しいのか、お前はよ」


「はい、我々が優勝させていただきます」


 毅然と答える唐梅に、男性が口を止める。老齢の男性が、小さくマフラーの下で笑う。

 目を点にする被験者達を前に、唐梅は背を伸ばす。


「この先、被験者同士の協力が必要な実験……及びクエストが実施されるでしょう。サイバーセカンドは実験の内容は追々配信すると言いました。ゲームの世界観を表現していると謳っている以上、クエストがずっと一つしかないという可能性は低いと思います。互いに協力し、その危険なクエストからあなた方の身をお守りする代わり、ログインボーナスはいただく。いわば、保険です」


 保険、とまとめて、何てリスキーな保険なんだと自虐的に考える。その保険の保障を担っているのは、悪属性の殺人鬼なのだ。


「そういった内容でよろしければ、お救いします。いかがでしょう」


 あっけらかんと言ってのける。


 反論していた男性は呆れたのか諦めたのか、少しぼんやりした後、肩をすくめた。被験者達は、唐梅のあけすけな発言に笑っていたり、考え込んでいるものなどにわかれている。


 時間を与えようと口を開くと、いきなり肩に強い力が加わった。グッディに肩を掴まれ、被験者達から離れた場所に引きずられる。


「ご主人様」


「……何だい、グッディ」


「気に入りません」


「……だろうね」


 グッディが不機嫌な顔に戻って、口を歪めている。一応小声にしてくれてはいるが、怒りを隠そうとはしない。唐梅は被験者達の前に立った時よりも、数倍神経を集中させる。


「守るって何です。救うって何です。ご主人様、言いましたよね。今日の実験で、証明すると。自分は、悪属性の最高な相棒だと!」


「殺しができる。何の問題がある」


 冷たい目ですぐに切り返す。


 グッディが間を置いて、数秒考える。不機嫌の色を少し和らげるが、への字になった口から、不満が消えていないことがわかる。


「……でも、悪属性の最高な相棒だと言ったのに……その証明はどこに行ったんです」


 最高な相棒、と言った覚えはないが、グッディの脚色には突っ込まず、至極冷静に返す。


「だから証明したじゃないか。見ただろう。あの人達、騙されていることに全く気づいてない。疑う人もいたけど、まるで見当違いな方向に目を向けていた。僕はポイントや賞金なんて、どうだっていいんだよ」


 えっ、とグッディが驚く。


 時間をかけて首を斜めにかたむけると、目をしばたたかせる。口をいじって考え始めるが、次第に口角が上がっていく。主人に対する期待に、ニヤついている。


「説明を後にもするよ、グッディ。それと、今後殺していいのは悪属性のNPCだけだ」


「――!?」


 グッディがニヤつくのをやめて、驚愕した。本当に表情をころころ変えるやつだ、感情を隠すということをしない。ここ数日自分を隠してばかりの唐梅は、相棒を羨む。すごい勢いで反論しようとしてくるグッディの口を両手で抑え、力いっぱい封じ、無理やり話し続ける。


「頑張って証明してくれた矢先に悪いけどね、グッディ……! 僕はまだ、君の力を信用していないんだ……! どうにも心配性でね……! この実験は世界規模だ、君より強いNPCがたくさんいたっておかしくない。あいたた、指を噛むな! だから騙す騙さない以前に、他のあらゆる属性を持った高レアリティのNPCと協力しておくことは、今後必ず有利に――……」


 被験者達がざわつくのが後ろで聞こえる。はっとして振り返る。振り返ろうと動かした足が、地面にうまく着地できず、バランスを崩す。


 振動。自分達の立っている大きな岩壁が、揺れている。


 揺れにパラパラと岩壁が崩れ、小さな石や砂が舞う。実験が始まって、すでに時間が経っている。慌てて周囲を見渡すが、他国の被験者やNPCがいる気配はない。


 揺れが大きくなり、グッディの腕に掴まる。皆が恐怖に身をすくませる中、グッディは嵐の気配を前にころっと上機嫌に戻っている。

 どこかで戦いが始まったのか。遠くを見渡そうと、岩壁の向こうに広がる景色に目を向ける。


 ごうっ、と強い風が巻き起こった。


 突風に被験者達が叫び声をあげ、地面にうずくまる。グッディの包帯を意識して頭に巻いたハチマキの先が、バタバタと翻った。風にも揺れにもびくともしないグッディに掴まり、強風に飛んでいきそうになる眼鏡を押さえる。


 ――……ォォオオオオオン!!


 この世のものとは思えない雄叫び。

 風が止む。

 グッディの黒いコートの向こうで、光を反射するうねりを見つける。うねりは空を泳ぎ、銀色の体をくねらせ、唐梅達の横を過ぎ去ろうとする。


「何だこいつ! ……龍!?」


「でっ、けえ……!」


 被験者達が叫ぶ。悲鳴とも驚嘆ともとれる声。


 鉄塊の体をした龍が、すぐ真横でうねっている。

 山なりになった胴体が、ジャラリジャラリ音を立てた。龍の腹が鉄のチェーンになっており、ずるずると岩壁の下から登ってくる。何十メートルとある長い体の全容が一向に現れてこず、延々空に伸びていく。


 不可思議な光景に、恐怖よりも感動を覚える。


 龍の目が、こちらを捉えた。長い体の先端、龍の頭の部分に目が複数ついている。

 うちの一つが、岩壁の上に立つ唐梅とグッディを見た。複数の目のドラゴン、どこかで見たデザインだと頭の隅で考えながら、唐梅は被験者達の方に戻ろうと走りだす。


「協定に入る!!」


 NPCを亡くした女性が声をあげる。


「あっ、僕も! 僕も入る~」


 紅白が続き、他の被験者とNPCも、口々に協定への参加を申し出ながら続々と唐梅の周囲に集まった。


 それとは別に、龍の登場にも取り乱さず、ずっと黙ってこちらの様子を窺っている他の被験者達の方を見る。NPCの情報を開示しなかった被験者達。

 こちらの視線に気づいて、首を横に振る。悪属性の主人達も、同様に首を振った。


 真摯に頷いて返すと、協定への参加を申し出た自分がこれから救う相手に背を向ける。被験者とグッディを置いて、今しがた否定を返してきた悪属性の主人達の元に走った。


「……あの」


「入んねえよ。何を言われようとな」


「……すみませんでした。大事なNPCを、殺してしまって」


 大トカゲの主人が、龍の雄叫びに消えそうな唐梅の謝罪に目を向ける。


 暗い目をふせ、男性の足先の辺りを見たまま、動かない少年。


 待っても動きそうにないと判断すると、男性は座っていた小岩からしんどそうに立ち上がり、唐梅の細い肩に手を置いた。


「謝るなら、殺すな。殺すなら謝んな。……お前、戦うって決めたんだろ。つまり、殺すって決めたんだ。なら謝んじゃねえよ。この先、ずっとな。俺だって誰にも謝んねえ。死体に向かってごめんなさいってやってるやつを、お前はどう思うんだよ」


 ふせていた目を上げる。


 厳しさの感じられる声。見た目の雰囲気がどことなくホウライに似ているが、あの非道な研究員の口からは絶対に発せられそうにないことを言う男性に、唐梅は神妙に頷いた。 


「……あーばよ。唐梅。と、にっくきグッドディード」


 男性達が、手を振り背中で別れを告げる。他の被験者とそのNPCが後に続く。


 日本の被験者が、いくつかにわかれて別行動を開始する。

 鉄の龍が空を泳ぐその下で、唐梅は自分の正義を達成させるために救うと決めた仲間の元へと走っていった。


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