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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第3章 唐梅と殺人鬼グッドディード
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ギリギリ正義

 頭上で小型手りゅう弾が爆発する。


 上方からの爆発音に、実験開始と同時に飛び出そうとしていた他の被験者達が止まり、いっせいに振り向いた。


 巻き起こった小さめの煙と破片が、風に散っていく。上に向かって投げたものの、風で舞う煙にあてられたグッディが、後ろでパタパタと手を扇いでいる。


 警戒する被験者達を前に、小岩の上で姿勢を正す。手を後ろに回して組み、顎を引くと、すっと胸を張った。


「――ご注目下さい。ここにいらっしゃる被験者の方々に、お話があります」


 しっかりとした声が荒野に通る。


 唐梅の真面目な面持ちに、被験者らが顔を見合わせた。NPC達もその横で大人しくしている。


 誰もが唐梅を見、聞き耳を立てている中、主人がこれから何をするのかと薄い笑みを浮かべているグッディ。それを横目で一瞥する。


 ……この電子空間にやってきて、今日で三日目。まだ三日目だ。そうとは思えないほど濃く、長く感じる。


 僕のNPCであるグッドディードが、他のNPCを殺し、人を殺し……多くを殺めた。

 もう戻れない。僕は、こいつと共犯だ。人殺しだ。


 息を吸う。涼しい空気が心地いい。それが決意を後押しする。


 グッドディードは、殺しをやめるつもりはない。そして、僕はこいつの前で悪属性である必要がある。

 こいつの反感を買って、死ぬわけにはいかない。グッドディードの好感を得ながら、できる限り抑え……その上で、僕の目的も達成する必要がある。


 息を吐く。熱い空気となって、荒野に消えていく。この熱意まで消えてくれるなと、息を止める。


 本当なら、これ以上誰も殺したくはない。しかしそのためには、こいつを止められるものが必要だ。グッドディードよりも強い誰かが必要なのだ。


 そうだ。ここに何しに来た。……あちらでできなかったことを、しようと来たんじゃないか。


 本当に欲しかったものは、もう手に入らない。それどころか、いつかこの電脳世界で、みっともなくむごたらしく死ぬだろう。グッドディードと一緒に。いや、死ななければならない。


 そう、僕らを倒す誰かが現れるまで。それまで、僕にできることは……。


「あなた方をお救いします」


 空気が変わる。被験者達の警戒が、困惑、疑問へとうつっていく。


 ――ガリッ。


 苛立ちを噛み潰す音が、すぐ後ろで聞こえた。グッディが歯を軋ませ、不機嫌極まりない目で唐梅を見上げる。それをまなじりで捉え、振り切り、前を向く。


 あの日、ここへ逃げてきた。もう同じ諦めを口にする気はない。二度は逃げまい。

 本当に目指した形には、もうなれない。それでも、なってやる。

 誰かを救うヒーローに。殺人鬼の相棒と、二人。僕達の方法で。


 僕はこいつを、ギリギリ正義にする。僕にとってそれは、完全に悪だけど。






「ああ……始まりましたねえ」


 研究室の大型モニターが、複数のフィールドをうつしている。

 荒野、砂漠、湖、あらゆる現実世界の自然を再現したフィールドで、各国の被験者が戦い、一方では、集まって何事か話している様子も見てとれた。


 荒野のフィールドでは日本の被験者達が、学ランに黒いコートを羽織った少年を真ん中に置き、その演説に耳をかたむけている。

 それぞれ別のフィールドをうつすモニターを目で追い、ホウライはぞんざいに足を組む。


「やはり、人間だ。ただのデータではない。……さあ、統計を取りましょう。実験体達が行動を始めましたよ」


 後ろの研究員らに告げる。

 荒野の映像を見ながらもう一つ、風が強く吹きすさぶ砂漠の中で、何かを画策するように集まる被験者達を見る。


 銀の甲冑に身を包んだ白人の集団が毅然と先頭に立ち、それを見守る一般的な服装のものが数十人。

 その群れの先頭の中央に、兜に青い房をなびかせた騎士を背後に連れた、凛々しい顔つきの銀髪の少女が立っている。


 決心を固めた表情で青い瞳を開くと、少女は自身の拳と拳を突き合わせた。


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