白い砂漠の夜
「全く……何なんだ、砂漠蔵め!」
人気がないのをいいことに、大きな独り言を放った。ずかずかと足に怒りを込めて、数センチほど積もった雪を踏み鳴らす。
高校にあがり新学期が始まってすぐ、トイレの壁にスプレーで派手に落書きしている女子生徒を見つけ、注意した。
それ以降何かと自分に突っかかってくるようになり、どちらかと言うと短気な唐梅は、はっきりその度にやめろと言い、もみ合いになっている。
すでに年末が近いというのに関係性は変わっておらず、今日もゴミを投げて寄こしてきたのでケンカになった。もはやクラスではいつものことという風に扱われ、唐梅と砂漠蔵の諍いを気にとめるものはいない。
「注意されたからって、やつ当たりか! 僕は絶対に負けないぞ……いつか更生させてやる!」
そう決心し、夜の早い冬の通学路を歩く。あたたかくも冷たくもない自分の家に帰ろうと近道を選ぶ。
住宅街に入り、さすがに足音を弱めた。人の気配がなく、暗闇と雪に埋もれた家々が廃墟に見える。まるで、白い砂漠を旅しているようだ。
ふいに、その廃墟の中に目を引く文字が浮かび上がった。
『砂漠蔵』
表札だ。見間違いようのない名前が書かれていた。立派な家で、在宅なのか明かりがついている。
いくら砂漠蔵の態度に腹が立っているとはいえ、自宅に乗り込むつもりはない。足早に門の前を通りすぎ、裏に回る。
少し進んで、立ち止まった。砂漠蔵がいる。家の裏庭の室外機に腰掛けている。長く揺れる金髪で隠れ、その表情は窺えない。
あんなところで何やっているんだ。と考えた矢先、砂漠蔵の様子がおかしいことに気がつく。
下着姿だ。雪の中、上にぺらぺらのカーディガンを一枚羽織っただけの格好で、俯いている。
ただでさえ白い肌が、青白くうつる。色の消えた唇から淡い息を吐き、体を抱くように腕を組んでいる。そして、じっと何かに耐えて動かない。
それは当然、寒さに耐えているものだと傍目には思う。しかし、砂漠蔵が耐えているのはそんなものではないとわかってしまう。
砂漠蔵は、確かに寒いのだろう。絶するような、凍えた場所にいる。
室外機に座る砂漠蔵の後ろで、漏れる家の明かりの中、他の家族が笑っている声を聞く。異様な光景にぞっとする。
すうっと冷えていく。
心が。体が。
砂漠蔵に対する怒りさえ、何もかも。
……家族はなくとも、施設から閉め出されることのない僕と、家族があるのに家に入れない砂漠蔵と、どちらがより冷たいところにいるのだろう。
砂漠蔵は、白い砂漠の中にいる。夜の砂漠で一人、凍えているのだ。
誰にも見つけられずに。
「――ご主人様」




