―プロローグ―
『――電脳世界研究の最高峰、サイバーセカンドの提供する電子空間、同名サイバーセカンド!』
頭からゴミにまみれて、少年が立ちつくしている。
広いリビング。暗い室内に、テレビの明かりだけがチカチカと浮かぶ。
『サイバーセカンドでは、実験に参加する先行被験者の方々を募集しています。参加したもっとも優秀な”コンビ”には賞金一億円!! ゲームの世界観を表現した最新の電子空間で、君は剣士に、魔術師に、悪の覇者に、ヒーローになれる!』
連日放送されているサイバーセカンドのCMだ。その後、特集が流れ始める。
少年は呟く。
「……応募しよう」
「えー……被験者、唐梅。学生。……ああ、ヒーローになれる、の宣伝文句を見てここに来たのか。コードのあれね」
鼻で笑うと、サイバーセカンドの研究員は電子空間の映像に目を戻した。
電子空間では”悪属性”のNPC達が暴れている。それを止めようと、必死に何事かを叫んでいる少年が見えた。
笑える状況に、つい吹き出しそうになってしまうのをこらえる。
「で、そいつに配られたのが……」
少年が、光にくらんだ目を開けた。
電子空間には海が広がっている。――血の海。
床に転がる無数の赤い物体が、汁を流し、白いだけの電子空間を赤くしていく。
被験者とNPCの死体の中、黒いコートを着たものが、呆然と座り込む少年の背後に立つ。
誰かを救うヒーローになろうとここへ来た。そんな自分に与えられた、NPCの相棒。
このサイバーセカンドで、自分とコンビを組む相棒。
無残な皆殺しを行ってみせた。”悪属性”の相棒。
善良な少年に、正反対の悪が笑いかけた。
「――サイバーセカンドへようこそ。ご主人様」