白、雨、古びた宿=期待
「あれ、人? 案外考えることは皆同じだねぇ」
なんてことない、ただ白い毛布を被ったおっさんだったから。
恐怖でも何でもなく、ただ拍子抜けして座り込んだ。
なんだろう、ここまでの緊張と期待を返して欲しい。そう思わずにはいられない。
まぁ、やっぱりか、という感じではあるが。
「ねぇ、君、座り込んでどうしたんだい」
「あー、すんません。俺の他に人がいるなんて思ってなかったんで驚いただけっす」
おっさんは大声で笑うと、俺に手招きした。呼ばれたなら行くしかないので、ゆっくりと立ち上がって近くに寄る。
「なんすか?」
「いやいや、雨が止むまで暇だからね。話でもしようと」
フリーダムか。このおっさんかなり自由人らしい。そしてコミュ力高いな。普通数秒前に出会った人間と会話しようとするか? いや、しない。.....あ、昨日反語を習ったからつい。
「いいっすけど。何話すんすか?」
「そうだね、今後の政治についてでも」
重い。内容が重すぎる。新聞もニュースもほとんど見てない俺には到底ついていけないテーマだ。
「あの、別のことにしましょう」
「ん? あ、テーマが重すぎたね。君は見たところ高校生くらいだよね。なら.....あれかな、あっち向いてホイ」
会話じゃない。会話しようって言ったのに、提案してきたの会話じゃなかった。というか高校生であっち向いてホイが思い浮かぶって。高校生と小学生間違ってないか? この人。まぁさっきよりマシではあるが。
「わかりました。せーの、ジャンケンポン」
俺がパーで、おっさんがグー。よし。
「あっち向いてホイ!!」
「ハイ!」
きっちり三拍。俺は右に指を向けたまま硬直した。おっさんの顔は右を向いている。俺の勝ちだ。だが、気になることが一つ。
「あの、あっち向いてホイは指と違う方向をむくゲームであって、決して一拍おいて指と同じ方向を向くものでは無いです」
「ん?そうなのかい?あっち向いてってお願いされたから向くものだと.....」
いや、ルール知らないのかよ。なんだそのあっち向いてホイ。何も楽しくないよ。ただ動体視力を鍛えるものになってるよ。
このおっさん、疲れる.....。俺の精神疲労が着々と進む。
突然おっさんが、はっとしたように真剣な顔をして俺を見つめる。
どうしたんだろうか。何か、「いる」のだろうか。
「今、私は大変なことに気づいてしまった......。君の名前を知らない」
このおっさんの話をまともに聞くのやめよう。
出会ってから五分。俺は心に決めた。