なんで登山したんだ、俺
「うわ、やべ、雨降ってきた」
頬に当たった雫に思わず苦い声を零す。全くもって今日はツイてない。
登山に来たはいいが、友人とはぐれ、決して山に詳しくはない身で歩き回った結果、明らかにコースから外れたことに気づいたら、今度は雨ときた。だから登山なんて嫌だったんだ。
確かに物珍しさにはしゃぎまわって、ふらふらしていたけれど。
「ん?もしかして自業自得か?」
俺がそんな考えに耽っている間も雨足は強くなる。慌てて雨宿りできそうな場所がないか探すがやはり山の中。木と草くらいしかない。
「雨宿りできるのは木の下くらいか.....」
仕方なく見た限り一番大きな木の下で雨をしのぐ。応急処置のようなものだったが案外濡れないものだ。止むまではじっとしていよう。そうすれば俺がはぐれたことに気づいた友人たちが探しに来てくれるかもしれない。そもそも最初からそうするべきだった。
一人で納得しながらタオルで濡れた部分を軽く拭いていると、視界の端に建物が見えた。
「あれ? 古びた建物だ。見落としてたか?」
ちょうどいい。あの建物の中で雨宿りしよう。どうせこの雨なら友人も探しには来れないだろうし。雨が止んだらまたここに戻ろう。
俺は結論づけて建物へ一直線に走った。この判断は俺の人生最大の後悔となる。
.....かっこつけて言ってみたけど、ぶっちゃけ自業自得の失敗である。
「はぁ。木の下も悪くないけど、やっぱ建物の中が安心する」
幸いなことに鍵がかかってなかったドアを開け、玄関で俺は一息ついた。こんな古びた建物でも木の下とじゃ安心感が違う。
玄関で靴を脱ごうとして、躊躇う。ここの床、汚い。もう履いたままでいいか。
「わりと広いな。元々宿とかだったのか?」
推察しながら奥に向かう。雨のせいで全体的に暗く歩きにくいが仕方ない。床もギシギシと音を立てている。気をつけないと、この床壊れそうだ。
そっと近くの襖を開いてみる。ちょっと古ぼけているが立派な畳の部屋だ。雨が止むまでここで待とう。
そしてその部屋に足を踏み入れた俺は、ありえないものを目にした。
. .....なんだ、あれ。
思わず思考回路が停止した。視線の先には白いナニカ。もぞもぞと動くそれに、ごくりと唾を飲み込む。
そっと、気づかれないように近づく。手が届くまで残り五歩、四歩、三歩、二歩......ギシ。
.....あ。
床の脆くなっているところを踏んでしまったのか! 音に反応して、奴がこちらを振り向いた。
目が合った瞬間、俺は地面に座り込んだ。なぜなら、白いナニカは......。