夢.....だったらよかったのに
目が覚めた。ぼやける視界に煤だらけの汚い天井が映った瞬間、あれが夢でない事に落胆した。
「はぁ。やっぱ、現実か.....」
「そう悲観することはないさ! ある意味いい体験だよ」
「そっすね。普通なら一生しない、したくもない体験っすね」
あっはっは! と大声で笑うこの人は一宮さん。小説家らしい。小説家といえばもっと物静かで、思慮深いタイプが多いと思っていたが、彼はそこからかけ離れている。
「うっさい! 朝から何なの、あんたは!」
突然隣の部屋から出てきた人に怒鳴りつけられた。いや、怒鳴られたのは一宮さんだが。思わず俺が背筋を伸ばす。それくらい迫力のある人なのだ。相変わらず笑っている一宮さんはある意味尊敬に値する。
「だからうるさいって言ってるでしょ! 朝から頭に響くのよ、その笑い声!」
怒鳴るこの人は天海さん。巫女さんだとか。.....俺の巫女さんのイメージが崩れたのは心の内に留めておく。
「うるさいですよー。2人とも。個人的には夕陽ちゃんのがうるさいかな?」
「はぁ!? そもそもこいつがこんな大声出さなきゃ私だって声張って怒鳴ったりしないわよ!」
天海さんの後ろから出てきた人は小道さん。新米のジャーナリストだと言っていた。この人も天海さんにビビってない人だ。
「もうちょい静かにできねーの? お前ら」
俺の隣で眠っていた男の人が勘弁してくれとばかりに耳を塞ぐ。彼は大鳳さん。確かピアニスト、だったはず。
ピアニストって繊細なものだと思ってたけど、そうでもないのかとイメージを覆す人だ。ついでに彼も天海さんに怯えてない。
......あれ?怯えてるの俺だけ?
「天海ちゃんはもーちょっと大人しくすれば可愛いのにねぇ」
「余計なお世話よ! 高瀬の大人しさを見習いなさい! へぼ小説家!」
そして突然矛先を向けられ慌てる俺、高瀬。高校二年生。この中で一番の若輩者だ。
こんな一見なんの関わりもなさそうな(実際一昨日まで何の関係も無かった)俺たちがここに集まっている理由。それはあまりにも不可解で、奇妙で、恐ろしいきっかけがある。
話は昨日に遡る。