事件のはじまり?
『やっぱり、つけられてた』
週末の金曜日。1時限目の最初に、そんなメールが飛び込んできた。
以前は鞄の中にしまいっぱなしで昼まで過ごしていたが、混信メールが来るようになって胸ポケットに入れるようにしている。
教師からの視線に入らないように筆箱で隠しながら、メールを確認するとそんな内容で少し驚く。
(つけられてるって……)
混信しててもさほど気にはならなかったが、こんな内容が現れるとは。
僕は続けてやり取りされるメールに気を取られる。
『うん、城崎通りの人通りが多い道で帰ったよ』
『でも抜けた先で待ってたみたい。人通りが少なくなった所で、後ろにいた』
『帽子にマスク、白っぽいTシャツに黒のズボンだったかな』
「おい、授業中のメールはほどほどにしとけ。過ぎると没収するぞ」
教師は注意しただけだが、教室内のあちこちでぎこちなく動くのを感じた。
かくいう僕も慌ててポケットへとしまう。話は気になるが、これ以上は流れてこないだろう。
休み時間になって、メールを確認するが、新たなメールはなかった。
昼休みになれば、わざわざメールを使う必要もなく、直接話せるだろう。
となると僕としては気になるところだけど、追求する事もできない。
まだメールの送り主が誰かも分かっていないのだ。
まずはそこからか。
メールの内容から、クラスメイトの女子ということまで分かっている。
部活には所属しておらず、自転車で通える範囲。
城崎通りを通るということは、学校の西側か。
城崎通りは、片側二車線の道路でそれなりに交通量も多く、ガードレールで仕切られた歩道は狭い。
自転車では避けたい道だろう。
テニスなど大きな荷物がある女子は、対象から外すとしても10人はくだらない。比奈森さんも外していいだろう。
あと生徒会書記をやってる佐野さんも違うかな。
今も数人で話しているグループが3つほど。メールの内容から早く相談したいだろうけど、前みたいに昼休みの纏まった時間が欲しいかもしれない。
現状では絞り込む事はできなかった。
結局、昼休みまで例のメールは届かなかった。前回は中庭で空振ったので、他の場所を探してみるか。
しかし、中庭でなければ何処だ?
昼休み、昼ごはんを食べながらとなると、それなりの場所でないとダメだろう。
食堂は多くの生徒で溢れているし、秘密の話をするには向かない。
この学校じゃ、屋上は開放されていないし、どこかの部室?
基本的に昼休みは閉まっているはずだが、鍵さえあれば中に入ることはできるだろう。
しかし、メールの内容から相談する相手も一緒に帰る友達のようだ。となると部活には所属していないはず。
だったら何処に?
僕はさしたる目標もなく、校内を歩き回ってみることにした。
まずはよく漫画に出てくる体育館裏。人目を避ける場所の代名詞として、かえって避けられてるんじゃないかと思うが。
現場を見てみると、初夏を迎えて下草が繁殖。とてもではないが昼ごはんを食べる雰囲気ではない。
グラウンドの方へと出てみると、早くもサッカーボールを手にした男子が集まっていた。
ベンチも幾つかあるが、日当たりが良すぎるのか誰も座っていない。
日焼けを気にする女子は外へはでないか?
図書室へと入ってみると、静かな雰囲気ではあるが、自習室などもあり、少人数で集まれるスペースもある。
ただ室内は飲食禁止なので、昼ごはんには向かないだろう。
ざっくりとまわってみたが、個人で利用している人しかいないようだった。それぞれが1人で本を読んでいる。
「あとは……あ、空き教室か」
少子化の影響もあって、校内にはそれなりの空き教室が出ている。
僕は2年校舎から、空き教室を確認することにした。
「って、鍵が掛かってるじゃないか!」
使われてない教室が開けっ放しになっているわけもなく、しっかりと施錠されていた。
当然、窓から覗いても誰かが居るわけじゃない。
「いったい、何処なんだよ……」
無駄足を踏んだ徒労感、校内を色々と回った疲労感。他に行き場が思いつかない焦燥感。
気づけば昼休みもほとんど残っていない。
そこへスマホへと着信が。
『意外と学校の紫陽花も綺麗だね』
へ?
紫陽花って事は中庭?
『今日は晴れてたから、色合いも綺麗で見応えあるよね〜』
天気……この前は曇ってたから、中庭を避けただけだったのか!
しかもメールの雰囲気を見るにもう相談も終わっているようだ。
何の成果も上げられなかった。
「やばっ」
昼休みも残り少ない。僕は慌てて教室へと戻り、急いでアンパンを牛乳で流し込む。
何をやってるんだろうなぁ。




