監視システムと抑止力
「また明日……ね」
「ああ、また明日」
部活の時間を終えて、小さく手を振りながら去っていく比奈森さんを見送り、僕は部室の戸締まりを行う。
高島の置いていった資料から、思った以上に盛り上がってしまった。
電脳使徒か。
今度見てみるかな。
浮かれながらに学校を後にした。
家に帰るとまたメールが届いていた事に気づく。
『今日も城崎通りから帰るね、また明日』
城崎通りというと、駅とは逆側だな。となると徒歩か自転車。まあ、大半は自転車だよな。
僕の場合は徒歩10分の距離なので歩きだが、珍しい部類だ。
授業中にメールが鳴った時は慌てたが、比奈森さんと出会うきっかけをくれた事に感謝している。
長く混信が続いてる事に戸惑いはあるものの、実害があるわけでもない。
放っておけばそのうち直るだろうという認識だ。
晩御飯のコンビニ弁当を食べながら、会長が渡してきた資料を読み進める。
大半は機関だの結社だのといった怪しい団体による陰謀論だ。
ネットワークの広がりにより、世界規模の秘密結社が影で暗躍しやすくなったとか。
企業がハッキングされて、個人情報が流出しただの、ゲーム用サーバーがダウンさせられただの、それには結社やハッカー集団が絡んでいるという。
表沙汰になっている大規模ハッカー集団は、白いマスクを付けて動画で犯行アピールをして、実際にサーバーダウンを引き起こし、銀行取引に影響を与えたとか。
「今日話していた電脳使徒とも繋がるなぁ」
アニメというのもバカにはできない。世相に合わせて話題を作り込んでくる事がある。例えば中東紛争や、テロが盛んになると、それを題材にして戦争モノが出てきたり、日本の集団的自衛権を真似た国が他国の戦争に巻き込まれていく話などだ。
電脳使徒も昨今のサイバー犯罪を軸に脚色して展開しているらしい。
公式HPであらすじを確認し、無料配信されている一話を見ると、そんな感じだった。
線の細い顎の尖った美青年達が、監視カメラの映像から犯人を特定して、追い詰めてく。
ゴーグル型のヘッドマウントディスプレイを被り、格闘のような動きでハッキングしていくのは、どうかと思いながらも、地味にロジックを解読してでは視聴者は引きつけにくいよな。
盗撮していた犯人を見事に逆探知して、あとは証拠を揃えて逮捕に踏み切る。
パソコンのカメラから、部屋の様子も丸わかりなので、どこに何があるかも把握済み。踏み込めば証拠は次々と見つかって御用となった。
「最後の手口はどっちが犯罪者かわからないな……」
ある種、行き過ぎた監視システムは、プライバシーを崩壊させるという制作側の意図が込められているのかもしれない。
となると僕の混信メールに単を発する学祭の議題にも繋がる。
監視システムの有用性。プライバシーとの兼ね合い。
その辺を軸に調べてみるか。
監視カメラの設置台数は年々拡大している。携帯電話やスマホに入る大きさになり、録画できるメモリーの容量も大きくなった。
解像度が上がり、より鮮明な画像が記録できるようになると、証拠能力としては更に信憑性が増している。
反面、店側が勝手に画像から切り出したポスターを作り、軒先に掲示するという行為が問題視されていたりする。
捜査権もなく、ノウハウもない素人が、そうした掲示を行うのは、冤罪を生む危険が高く、私刑を行ったとなると店側が訴えられる可能性もある。
とはいえ万引き被害は後を断たず、年間の被害額はかなりの額に上る。
一つの商品を盗まれると、その利益を取り戻すのに20個以上の商品を売る必要があるなどの試算も出されている。
監視しているという明確化が、犯罪抑止に繋がるのならば、店側が犯人とおぼしき人を掲示する気持ちも分からなくもない。
本来であれば、警察に任せるのがいいんだろうけど、すぐに動いてくれるとも限らない。
果たして『正解』とは何なのか。
「調べれば調べるほど分からなくなるよなぁ。犯罪者が減るのが一番なんだろうけど、冤罪被害者がでたら、それはそれで問題だし」
痴漢の取締が厳しくなると、それを利用して脅迫する行為も出ているらしい。
冤罪が元で会社を解雇になる事案もあるそうだし、そうなると人の人生を壊すことにも繋がる。
「まあ、大人が考えて結論がでない問題を、僕がどうにかできるわけもないか」
監視のあり方と、現在の状況とまとめて資料を作成する事にした。
やり始めると時間はあっという間に過ぎていく。眠くなったのをきっかけに作業を中断して寝ることにした。




