比奈森さんと高島
一度学校を出たのに、部室へ行くために戻ることになる。咄嗟の判断でメールの送信者にあたりを付けることはできた。
その代わりに、相手を勘違いさせるリスクも背負ってしまったが……。
いやまだ僕を不審者と思ったとは限らない。単に学校の外で会っただけ。証拠になるようなものもない。大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かすようにしながら、部室へとやってきた。
「見てもないのに何でそんなこと言えるんですか!」
「ふっ、数多のレビューが語っているではないか。ハズレだと!」
「自分で判断できない人に何を言われたって」
「そんな涙目で言われてもなぁ」
バンッ!
勢い良く部室のドアが開いたかと思うと、比奈森さんが飛び出してきた。
「ひ、比奈森さん?」
キッと僕を一瞥してきたが、何も言わないままに階段を駆け下りて行く。
その剣幕に呆然としている間に、小さな身体は見えなくなっていた。
「お、おぉ、同志よ。今日は遅かったではないか」
「お前、比奈森さんに何を言ったんだよ」
「比奈森女史というのか。何、部活に興味があるようだったので、少々リサーチをだな」
「……とてもそうは見えなかったが?」
「アニメに興味があるようだから、何が好きかと訪ねたら、ウォーホラとかいうのでな」
「何がおかしいんだ?」
「だ、だって、散々叩かれている作品ではないか。殺しとけばいいんでしょ展開やら、安易な戦争批判だとか……」
「お前は見たのかよ」
「や、そんな評価のモノをわざわざ見なくても……」
「好きだという人の前で、見てないアニメを批判したのかよ」
「む、むぅ、そ、そうだな。吾輩が、悪、かった」
普段は冷静な高島だが、見知らぬ女子との会合で軽くパニクってしまったのかもしれない。
どよーんと肩を落としている。
普段は二次元嫁とか言ってても、リアルの女の子を前にして意識せずにはいられない。
変な頑張りを見せてしまうと、ドツボにハマることが往々にしてあるものだ。
「比奈森女史は、同志の……知り合いかね」
「ああ、クラスメイトだよ。ちょっとしたきっかけで、話してくれるようになったんだけど」
「う、うむ、その、なんだ。謝っておいてくれるか。もちろん、吾輩が直接頭を下げるのが筋だろうが、会えるかわからんしな」
「それは伝えるけど……月曜日だな」
「う、うむ。それはそうだろうな。すまないが頼む。吾輩はもう帰るよ……後は任せた」
肩を落としたまま、高島は部室を出ていった。
僕としては比奈森さんと過ごす予定だったのが崩れて途方に暮れる。
僕が1人になって考えることは、混信メールのことだった。
メールの送信者……よく考えたら、佐益さんかどうかもまだ不明だ。あの時間に、たまたまクラスメイトの女子が通っただけで、彼女は普段からあの道を使っているだけかもしれない。
僕がいなくなってから、本当のメール送信者が通ったのかも。
そうすると、僕が不審者と間違われるリスクはなくなるが、逆にメールの主が誰かが分からなくなってしまう。
ここは佐益さんがメールの主として考えるべきか。
彼女はクラスの中でも目立つ存在だ。モデルのような容姿で、見た目は清楚系。クラスはもちろん、学内でも人気はあるだろう。
道端ですれ違っても振り返ってしまう人もいるかもしれない。
つまりは、どこから付きまといが発生してもおかしくはない。
外部の者が気に留めたとして、制服姿から近くの学校に目をつけるのもすぐだろう。
そこまでするかと思ってしまうが、日々のニュースを見ていると、勝手な思い込みから犯罪に走るケースも少なくないようだ。
「結構、まずいんじゃないか?」
彼女自身が尾行に気づくまでも時間はあっただろう。それに道を変えても追いかけてきたらしい。
かなり執拗な追跡があるとするなら、思っている以上に切迫した状況かもしれない。
いやまて、僕がそんなに慌てる必要もないのか。友達に相談しているようだし、彼女の方が人脈の幅も広い。
素人である僕がアレコレ気を回していては、それこそ僕の方が不審者扱いされる危険もある。
「メールの主が佐益さんだとしても、僕の出る幕はないな」
僕はそう結論づけて、学祭へ向けた電子情報と、防犯システムについての調査へと戻っていった。




