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現想真魂録/外伝~Unknown Blaze~  作者: 観測者S
第壱章 九尾の里
3/5

三之巻 はじめてのかり

翌日。



不知火とゲンは、『里の集会所』なる、他の家に比べ3倍ほど大きな建物に向かい、多くの九尾が集まるその場所で、そこで8本の尻尾を持った男性と会っていた。



男性「来たね。」


ゲン「待たせたの。」


不知火「この人が?」


ゲン「うむ。この里の猟団の団長、シンじゃ。」


男性「初めまして、かな。君の顔は僕にも見覚えが無いからね。」


男性「団長のシンだ。よろしく。」


不知火「ああ、よろしく。」



シンが差し伸べた右手を握り、不知火は握手を交わす。



シン「君は『不知火』でいいのかな?」


不知火「ああ、構わない。」


ゲン「さて、ここが今日の本題じゃ。昨日は言わんかったが、お前さん猟団に入ってはみんかの?」


不知火「俺が?」


ゲン「テンから聞いたんじゃが、お前さんの今の身体能力は狩りには差し支えない程度に回復しとるそうじゃないか。どうせずっと家にいても暇じゃし、手伝ってみてはどうじゃ?」


シン「僕らとしても、メンバーが増えるのは喜ばしいことだ。手伝ってくれると助かる。」


不知火「そうだな。『働かざる者食うべからず』という言葉もあるし、手伝わさせてもらおう。」


ゲン「決まりだの。じゃ、後は当人に任せるわい。」



ゲンは退室する。



シン「じゃあ、ここの事を少し教えておこうか。と言っても、あまり複雑じゃないけどね。」


シン「狩りは毎日、ここでみんなでお昼を食べてから出る。そして捕って帰ってきた獲物が、その日の里の皆の晩御飯になる。」


シン「山菜やキノコは里の女性が取りに行くから、僕らが捕るのは獣だね。」


別の男性「団長、備品の整備が終わりました。この方は……?」



不知火とシンが話していると、尻尾を6本持った、不知火より少し若く見える男性がシンに話しかける。



シン「ああキンか。報告ありがとう。先日、黒い炎で火だるまになっていた者を助けただろう?あの時の彼だよ。」


不知火「不知火だ。記憶が無いため、便宜上そういう呼び名になっている。」


キン「そうですか。私はこの猟団で、副団長みたいなものをやっているキンといいます。以後お見知りおきを。」


不知火「よろしく。」


キン「そうだ団長。彼も入団するなら、彼の分の装備を調達しなければ……」


シン「そうだね。その件は任せていいかな?」


キン「分かりました。それじゃ彼の出撃は、装備品がそろってから?」


シン「いや、今日は僕のを貸そう。それでいいかい?」


不知火「ああ、構わない。」


キン「分かりました。」


女性「ほ~ら男達!ご飯できたよ~!」


シン「まずはご飯だね。」






そして、食事が終わり。




里の入り口




そこには、シンを含め約20人くらいの人(九尾)が集まっていた。



シン「皆、そろったね。」


男性(A)「団長ー、この人はー?」


シン「彼は新しくこの猟団に入ってくれた、不知火君だ。記憶喪失だそうだから、優しく接してあげてほしい。」


不知火「不知火だ。よろしく。」


男性(B)「ってお前、こないだの燃えてた奴じゃねぇか!?」


男性(A)「俺はケン。体、大丈夫か?」


不知火「ああ。体の不調は無い。」


ケン「そりゃよかった。」


男性(B)「俺はギン、よろしくな。」


不知火「よろしく。」


シン「自己紹介は、後で各々でやってくれ。早く行かないと陽が沈んでしまう。」


ギン「そうだな。ま、お手並み拝見って事で。」


シン「僕は今回、後衛から支援に回る。獲物を見つけたら、まずはいつもの前衛の者と、不知火で奇襲をかけてもらう。」


ケン「で、後は流れに任せて、でしょう?いつも通りですね。」


シン「まぁそうなるね。不知火はそれでいいかな?」


不知火「他の皆についていけるか分からないが、尽力させてもらおう。」


ギン「いい気概だな。よっしゃ、行くか!」


シン「よし、出発だ!」


九尾達「おおーーーっ!!!」











里から程なく離れた森の中



九尾達は木々の間を、まるでどっかの忍者の様に跳び、獲物を探していた。

完全に人間の身体能力を凌駕した九尾に、自覚は無いが人間である不知火もなぜか自然についていけていた。恐らく、記憶を失う前はそれなりに鍛えていたのだろう。



ギン「なぁ不知火。お前って、ホントに尻尾無いのな。」



大きなハンマーを持ったギンが、不知火に話しかける。



不知火「そのようだが……何か不都合でも?」



長身の剣を持った不知火がそれに応える。



ギン「いや……なんつうか……不思議だなって。」


不知火「そうなのか?」


ケン「普通俺達九尾は、尻尾が千切れると死んじまうからさ。尻尾ゼロで生きてるのが不思議なのさ。」



大きな武器爪を装備したケンが会話に参加する。



不知火「そうか。なぜだろうな。」


ケン「もしかしたら、不知火は九尾じゃないのかもしれないね。」


ギン「九尾じゃない?でもそしたらお前、コイツは何なんだよ?」


ケン「そこまでは流石に分からないけど……でもさ、俺達だって、今ある全てを知ってるわけじゃない。きっと、尻尾のない九尾もどっかにいるんだと思うよ。」


ギン「これで不知火が記憶喪失じゃなきゃ、色々分かったんだがなぁ。」


不知火「悪かったな。」


ギン「ああいや、お前は気にしなくてもいいさ。お前が何だろうと、お前はお前さ。」


男性(C)「おい、あれ……」



談笑しているうちに、他の九尾が何かを指さす。

他の九尾も、それに注目する。



シン「……見つけた。まずはアレを捕ろう。」



男性が指を指した先には、五頭の大きな牛のような、鬼のような。二足歩行の何かがいた。



シン「あれは『牛鬼ぎゅうき』だね。まだ子供のようだけど、アレを2,3頭狩れば十分かな。」


不知火「急所は?」


シン「首筋の所、背中側だね。大抵の生き物はそこを狙えばいい。後は食べることも考えて、出来るだけ傷を付けずに狩ろう。」


不知火「分かった。」


男性(D)「シン、俺達ゃいつでも行けるぜ。」


シン「分かった。それじゃ、今回は不知火、君の合図で仕掛けよう。」


不知火「いいのか?」


シン「君の実力を見てみたいからね。」


不知火「わかった。なら、私の特攻を合図としよう。」


シン「皆聞いたね。不知火が攻めると同時に行くよ。」


ギン「りょーかい。んじゃ任せるぜ。特攻隊長さんよ。」


男性(C)「新米の初陣か。安心しな。背中はお兄さんに任せな。」


不知火「ああ。行くぞ。」



不知火が手に持つ剣を腰深く構えると、それに合わせて他の九尾も武器を構え、後衛は弓で矢ををつがえる。



足元にいる牛鬼を、こころで捉える。そして。



不知火「推して……参るっ!!!」



立っている枝から飛び出し、眼下の牛鬼目がけて剣を突き刺す。

肉が裂ける音が響き、首筋に真っすぐに剣を突き立てられた牛鬼の子は生を失い、倒れる。



ギン「続けェェェェ!!!」


九尾達「おおおおおおおおおおおッ!!!」



それに続き、他の九尾も襲い掛かる。



シン「弓矢隊、放て!!!」



枝から放たれる矢の雨が、正確に牛鬼の目を潰していく。



牛鬼(子)「ガァァアアアッ!!!」


片目を潰された牛鬼の一頭が、ギン目がけて大きな拳を振り下ろすが。



ギン「そら……よっ!!!」



それを槌で真下から打ち上げ、牛鬼はバランスを失い。



ケン「うおおおおおりゃああああ!!!」



牛鬼が何とか踏みとどまった瞬間、後ろからケンの武器爪が深々と突き刺さる。



牛鬼(子)「ガァッ……ァアアアアアア!!!」


ケン「うおっ、おおおおお!?」



それを牛鬼が力ずくで振り払う。その直後。



ギン「つぅうううぶううううれええええろおおおお!!!」



牛鬼の脳天に、ギンによる重い一撃。


白目を剥いた牛鬼は、その場に倒れ伏せる。



ケン「流石ギンさんだ。」


ギン「いや、あっちはもっとすごいぞ。」



そういって、ギンが指を指す先には。



不知火「スェアッ!!!」



不知火が剣で牛鬼の顔を一閃すると、その角は削げ落ち。



不知火「ハァッ……ダァッ!!!」



振り向くように斬りつけた上段からのため斬りが、牛鬼の脳天をかち割る。



男性(D)「すげぇ……」


男性(E)「1人で、しかも速い……」


シン「こりゃ、僕の出番はないかな……」



そしてもう一頭の牛鬼も、ものの数秒で仕留める。



不知火「後は……逃げたか。」


シン「必要数は確保したし、もういいかな。あまり多く捕っても腐らせるだけかだからね。」


男性(C)「よし、さっさと捌いて里に……」



各々武器を仕舞い、狩った牛鬼を運びやすいように解体しようとしていたその時。



ズシン。



何かの音が、大きな質量を持ったものが接地する音が、響く。



ケン「ん?何の音だ?」


シン「……警戒しよう。」



皆が警戒し、辺りを見回す。


すると、辺りが急に暗くなる。


それが何らかの影に入ったということに気付いた時には、もう遅くて。



男性(D)「こ、これ、もしかして、牛鬼のおy



セリフはそこで途切れ。



男性(C)「どうしたメン、一体何……が……」



CがDの方を振り向くと、そこにあったのは、血だまりと『巨大な腕』。



ギン「これは……」


シン「なるほど、牛鬼の親……か。」



その『腕』は、より高い場所からのびており。



自分とは何倍もある巨大な体に、巨大な二本の角。


我が子を失った悲しみと怒りを原動力に襲い掛かってきた『それ』は、



牛鬼「ガアアアアアアアア!!!」



ある人物一点を見定め、咆哮した。



そして、その『相手』もまた、過去に口にしたかもしれないセリフを以って、不敵に返すのだった。



不知火「来いよ……相手してやるからさぁ!!!」




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