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現想真魂録/外伝~Unknown Blaze~  作者: 観測者S
第壱章 九尾の里
2/5

二之巻 新たな家

ゲン「さて、お前さんの呼び方が決まったところで……」


ゲン「自分で言うのもなんじゃが、わしの事を知らんあたり、おおかた他の事も忘れとるんじゃないかのう?」


不知火「まぁ……というか、何も覚えてないな。」


ゲン「やっぱりの。」


テン「記憶喪失かい。」



私の周りに3人が座り、会話は進む。



不知火「それで……ここはどういう所なんだ?」


ゲン「まぁ慌てなさんな。じっくり説明しちゃる。」


ゲン「ここはテンの診療所じゃ。そして、いまお前さんがいるこの集落は『九尾の里』。その名の通り、儂等九尾の里じゃ。」


ゲン「見たところ、お前さんは尻尾が無いようじゃが……まぁ覚えとらんおぬしに訊くのもの。」


テン「あ、そうそう。あなた丁度左の胸に大きな穴が開いてたんだけどね。里長が体の一部を補うのに使わせてくれたのよ。」


不知火「そうだったのか。礼を言う。」


ゲン「ああ気にするでない。おぬしの目が覚めて何よりじゃ。」


ラン「ねぇおじいちゃん、このお兄さん……じゃなかった、不知火さん、どうするの?」


ゲン「うむ。実はそのことなんじゃがの。」


ゲン「お前さんがどこの家の者か調べるため、いろんな家に、いなくなった者がいないか訊いて回ったのじゃがの。」


ゲン「どこの家にもそんな奴はいないという結果が出ての。とどのつまり、お前さんはこの里には親も兄弟もいたかもわからんのじゃ。」


ゲン「そこで考えておったのじゃよ。おぬし、ウチに来んか?」


不知火「いいのか?」


ゲン「ああいいとも。こういってはなんじゃが、今ウチはランとの二人暮らしでの。」


ラン「お母さんは私を生むときに死んじゃったし、お父さんは狩りの途中で……」


ゲン「……まぁそんなこんなで、ウチは結構寂しいのじゃ。お前さんは悪者には見えんしの。」


不知火「じゃぁ、お言葉に甘えさせて貰おうか。」


ゲン「まぁ今日はこれくらいかの。あまり怪我人に長話をさせるもんでもない。この辺でお暇させてもらうかの。」


テン「ま、里長の家に行くのはその怪我が治ってからにしな。焦ってもしょうがないよ。」


ラン「またね。不知火さん。」



ランとゲンが退室する。



テン「実はね、ランちゃん、あなたが運び込まれたその日から、毎日欠かさずお見舞いに来てたのよ。」


テン「何日も目を覚まさない事なんて、私達九尾は滅多にないからね。相当心配してたんだろうねぇ。あの子、優しいから。」


不知火「そうか。」


テン「ま、とりあえずアンタは、その体を治すことを考えな。」





そして、数日が経ち。






テン「もう全快だね。」


不知火「おかげさまで。」


ラン「治ったの?」


不知火「ああ。」



ランの問いに、誰もいない方を向いて、回転するようにエア足払い。

その後軸足を入れ替えてエアハイキックを空中に繰り出し、そしてその勢いで空中回転蹴りを繰り出す。

スタッと着地し、ランに向かって拳を突き出して答える。



テン「完全復活ってとこかい?」


不知火「多分な。」



私が目を覚ました後も、ランは毎日欠かさず見舞いに来ていた。

他に用事が無いのか訊いたところ、なんでも『私達子供の九尾って、ものすごく暇なの。』だそうで。

『他の子どもと遊ばないのか?』と訊いたところ、『普段はテンおばさんのお手伝いしてるし、こっちのが楽しいから。』と返ってきた。



ラン「じゃあ、今日からウチに来るの?」


不知火「色々準備とかあるだろうけど、ここにも結構長いこと世話になってるしな……」


テン「ああそんなの気にしなくていいよ。一人も二人も変わらんさ。ランちゃんは里長に伝えといで。」


ラン「うん。」






そして翌日。





ゲン「ここが、儂等の家じゃ。」


不知火「ここか。」


ラン「うん。ここ。」



目の前には、一件の家。しかしそれは、私の考えうる『家』ではなかった。

まず最初に。木造とかそういうレベルじゃない。『藁』を使ってる。

石で外壁を建て、木で柱を組み、藁で天井を造る。

そして照明は、見事なまでに正確に組まれた石製の『窓』(閉めることはできないため、蓋の様な物がセットになっている)と、部屋の中央にある囲炉裏。それがこの集落の基本建築スタイルらしい。



ゲン「これでおぬしも我が家の一員じゃな。」


不知火「ああ。世話になる。」


ラン「家族ってことは……兄様になるの?」


ゲン「そうなるかの。」


不知火「よろしくな。ラン。」


ラン「うん。よろしく。兄様。」



『兄様』。


なぜだろう。このフレーズがやけに引っかかる。

記憶を失う前の私にとって、何か大切なフレーズだったのだろうか。

まぁそんなものはどうでもいい。それより今は。



ゲン「早速仲がよくなっているようで結構。いつまでも家の前につっ立っとらんで、入れ。」


不知火「ああ。」



この新しい環境で、『私という存在』が始まることのほうが重要である。





そして、その晩。

囲炉裏に灯る日が、家の中を暖かく照らす。



ラン「ごはん、できた。」


ゲン「じゃ、飯にするかの。」


不知火「分かった。」


ゲン「おぬしも硬いの。もう少し息を抜いたらどうじゃ。」


ラン「ここはもう、兄様のおうち。はい。」


不知火「そうか。ありがとう。」


ラン「はい、おじいちゃん。」


ゲン「おお、おお、今日もうまそうだの。」



囲炉裏の真上から吊るされた鍋から、ランが作ったであろう食事がとり分けられる。



ゲン「それでどうじゃ。この家の居心地は。」


不知火「悪くない。」


ゲン「そりゃ結構。」


ラン「美味しい?」


不知火「ああ。」


ラン「そう。よかった。」


ゲン「しかしランが懐くとはの。びっくりしたわい。」


不知火「そうなのか。」


ゲン「ランは真面目で優しいのはいいんじゃが、いかんせん表情をあまり出さないのでな。大人も子供も、迷惑ではないにしろ近寄りがたいそうなのじゃ。」


ゲン「じゃからこうやって気軽に話す相手も少なくての。おぬしに懐いたのは想定外じゃったわい。」


ラン「兄様は、やさしい。そんな気がする。」


不知火「そうか。」


ゲン「ああそうじゃった。明日、おまえさんをある人物に合わせたいと思うとる。相手はこの里の猟団の団長のシンじゃ。」


不知火「どんな人なんだ?」


ゲン「人当たりがよく、人望があるな。それに実力もかなりのものじゃ。いつじゃったか、大きな牙獣を一人で狩ってきたこともある。」


ラン「あの晩はごちそうだった。」


ゲン「まぁ儂等九尾が元々他の種族と比べて体が強いのもあるが、シンはその中でも強い。若い女子おなごはよく『いけめん』とか言っとるの。ああラン、おかわり。」


ラン「はい。兄様は?」


不知火「ああ、もらおう。」


ゲン「まぁそういうことで、頭に入れておいてくれ。」


不知火「分かった。」



団欒の時は流れ。



ゲン「もう外は真っ暗じゃな。腹も膨れて眠いし、もう寝るかの。」


ラン「そうだね。火、消すね。」



ランが囲炉裏の火を消すと、辺りは急に真っ暗になる。

特に何かを敷いたりするという事はなく、そのまま床に寝転がる。

とりあえず今日はもう寝よう。そう思い、瞼を閉じる。











どれくらいたっただろうか。時計のないこの環境で過ごしてきたせいか、時間の感覚は徐々に狂いつつあった。

なんとなく時間がたったころ。

背中にひと肌を感じる。

そして寝息を感じる。



ラン「スー……スー……」



横を向いて寝ている私の背中に、ランが寄り添って寝ている。

このままだと寝返りをうった際につぶしてしまう。かといって動かせば、起こしてしまいかねない。

だから。



不知火「よい……しょっと。」



自身の体をランに向け、そして腕枕をしてやる。

元々枕を使う文化は無いのかもしれないが、やっぱりあった方が寝やすい。

窓から入る月明かりが、わずかにランの優しい寝顔を照らす。



不知火「おやすみ。」



明日に備え、今日はもう夢へと潜り込もう。

私は再び、目を閉じた。

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