一之巻 知ら不の火
不思議感を纏った子供「時空が……揺らいだ?」
不思議感を纏った子供「まさか『初号機』が?いや、でも……」
不思議感を纏った子供「……もしかしたら。これは……」
熱い。
身を焦がそうとする、熱さ。
???「先生!!!」
堕ちる。
身を呑まんとする、火の海。
?「さようなら、現代の勇者さん。」
呑まれる前に、己を鎧って。
憶えているのは、それくらいで。
気が付けば、体は黒く燃え盛り。
??「おい、速く火を消せ!!!」
??「大丈夫か!?おい、速くテンさんの所に!!!」
??「尻尾が無ぇ……生きてるのか?」
何もかも。
己さえも。
理解できなかった。
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――
気が付けば、自分の体は重力とは反対の方向を向いて横たわっていた。
気配を感じる。自分の周りで、何かが動いている。
光は感じない。光を受容すべき器官の上に、何かが覆いかぶさっている。
自分の体を認識する。意識と肉体の接続を感じる。
取りあえず、体を動かしてみる。
しかし、動かない。動いてくれない。
それでも、音は感じ取れる。
??(A)「それにしても酷い怪我ね。もうかれこれ10日になるかしら。」
??(A)「黒い炎で燃やされてのたうち回っていたって話だけど、それ以上にこの姿が不思議よね。」
??(A)「尻尾も無く妖力もほとんどないのに、息があるんですもの。」
??(B)「おばさん、目、覚めた?」
??(A)「あらランちゃん、今日も来たのね。」
??(A)「目に包帯を巻いているから分からないけど、この分だとまだね。」
??(B)「そう。はやく元気になるといいね。」
??(A)「そうね。それに越したことはないわね。」
また意識は途切れる。
意識は深く、深層へ潜っていく。
不意に、一人の少女の影がちらつく。
名前も分からない。顔も思い出せない。
それでも。深く眠らんとする意識の中で。
手をのばし。名前を呼ぼうと、もがいていた。
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――――
――
??(A)「さて、もういい頃だと思うんだけど。」
目に何かが刺さる。しかし痛みは感じない。
刺さったものが、外からの光と気付いた時には、自分は目を見開いていた。
??(A)「目が、覚めた……」
目の前にいる存在が、半分驚き、半分喜びといった表情であろう顔で自分に訪ねる。
??(A)「大丈夫かい?どこか痛い所とか無い?」
そう、目の前の存在が自分に話しかける。
その言葉は質問の意であろうと推察し、自分はその問いに答えるべく口を開く。
自分「だい……じょ……けほっけほっ」
長いこと声を出していなかったせいか、うまく声が出ない。
??(A)「ああほら、水水。」
その存在は、目の前に液体の入った器を持ってくる。
そして自分の背中に手を回し、俺の上体をゆっくり起こす。
これは知っている。おそらく『水』だ。
対象が無害だと判断し、それを口に含み、のどを潤す。
??(A)「落ち着いたかい?」
自分「……ああ。」
??(B)「……あ。」
一息つくと、視界には新たに、目の前の存在より幼いであろう同種の存在が入り込んでいた。
??(B)「目……覚めた。」
??(A)「あらランちゃんいいところに。あたし里長にこのこと伝えに行くから、彼の事頼める?」
??(B)「わかった。いってらっしゃい。」
先にいた方は、今初めて認識したこの部屋から退室する。
??(B)「あの……」
自分「?」
??(B)「大丈夫?」
ここでようやくまともに存在の容姿を確認する。
今までは、久しぶりに脳が受け入れている情報量が多く、姿まではよく分からないでいた。
目の前の存在のその姿は、10歳くらいの人間の女の子のようで。
ただ一つ違うのは、背面の腰のあたりに3本のふさふさの尻尾があることだった。
自分「ああ。」
??(B)「よかった。」
??(B)「お兄さんね、真っ黒な炎で火だるまになってたんだよ。それから、15日くらい寝てた。」
自分「そうか。」
??(B)「私、ランっていうの。さっきの人はテンおばさん。お兄さんは?」
自分「俺は……」
ここで、初めて自分の事を考える。
はて。
出てこない。
というより、今の体の状態以外に、自分の事が何一つ分からない。
そして現在に至る全てが分からない。要するに、記憶を喪失しているのだ。
自分「……分からない。」
ラン「そう。」
ランと名乗った少女は、床に寝そべっている自分の傍に腰を下ろす。
自分「……。」
ラン「……。」
テン「戻ったよ。何ともなかったかい?」
ラン「うん、大丈夫。」
??(C)「目が覚めたようじゃな。」
全く会話も音もなく、ただじっとランがこっちを見つめるという気まずい状況を打開したのは、部屋に戻ってきたテンと呼ばれた7つの尻尾を持つ女性と、それに続いてきた、9本の尻尾を持つ爺さんだった。
体を起こそうとする。
自分「うっ……くっ……」
しかし力が入らない。
ラン「大丈夫?」
テン「無理しちゃいかんよ!」
??(C)「ああ、そのままで構わん。けが人は無理しちゃいかんからの。それで……」
??(C)「気分はどうじゃ?」
自分「……悪くはない。」
??(C)「それはなによりじゃ。」
ラン「あのね、この人、自分の名前が分からないんだって。」
テン「ホントかい!?」
??(C)「それは災難じゃったな……儂はゲン、この『九尾の里』の里長じゃ。そこのランは孫じゃ。」
テン「アタシはテン、この里で診療所をやってるよ。」
ゲン「さて、おぬしの呼び名も決めなくてはの。」
テン「何かないかねぇ……」
ラン「お兄さんの名前……お兄さんの名前……」
名前を入力してください
___ ___ 決定
あいうえお はひふへほ ぁぃぅぇぉ
かきくけこ まみむめも ゃ ゅ ょ
さしすせそ や ゆ よ ん
たちつてと らりるれろ カタカナ
なにぬねの わゐ ゑを 英 数
※スマホ・携帯の人は見ずらいかもです。ごめんなさい。
―――あほか。
しかし、どうしたものか。
何かいいモチーフはないだろうか。ありもしない記憶の中を必死に駆けずり回ってみる。
――一つ、それっぽいのが出てきた。
『自分「よう。」
仮面の者「……。」
自分「やっぱり来たか。」
仮面の者「……どうやら、私の観測たものは変わらないようだな。」
自分「……それは俺が観測たものと同じって考えていいのか?」
仮面の者「……確認ならば、今済んだだろう。」
自分「……ひとつ訊きたい。お前は何時の俺だ?」
仮面の者「……その問いに対する回答を、私は持ち合わせていない。」
自分「……そうかよ。」』
――なんつったっけ、あいつ。
きら……いら……しら……
そうだ、しら……しら……しらが……
違う。しら……しらな……しらん……知らん!
ゲン「不知火……なんてどうじゃ?」
そうそう、それそれ。
なんかそんな感じだった気がする。
ラン「しらぬい……?」
ゲン「おぬしは今まで見たこともない、そう、いわば『知ら不の火』を纏っておった。どうじゃ。ぴったりじゃろう。」
テン「うーん。アンタはどうだい?」
自分「俺は……」
そうだ。記憶にあるアイツの一人称は『私』だったな。
俺の記憶と里長の発案が合致するという偶然が起きたわけだが、ここは一つなりきってみよう。
自分「いや、私は、それで構わない。」
以前の私が、どんな人格を持ちどんな記憶を持っていたのかは知らない。
いつまでも過去にしがみついていた所で、意味は無い。
ならば私は、『今』を生きよう。
己が魂を燃え盛る『焔』とし。
この体に染みた『業』と共に。
私は私という唯一の『真』を抱いて。
新たな私となるため。この仮面を被ろう。
自分「私はこれより――」
自分「――『不知火』だ。」
どうも。エルリッタです。
この話は、本編(幻想の勇者共が現代入り)を読んでくださっている方ならご存知でしょう『不知火』のスピンオフとなります。
ただ自分の中ではスピンオフとしては結構長くなりそうなので、本編と並行して頑張っていきたいと思います。
これからも、本編共々よろしくお願いいたします。