01−起動
モンゴリアでは、匈奴や突厥、契丹などの昔の栄華は既に消えており、血で血を洗う戦いが続いていた。モンゴリアに住む人々は遊牧民族であり、馬を乗りこなすので、南方の遼や西夏、金などの国の村にて、略奪した後は早々と去ってしまうので、人々からは"馬上の死神"と呼ばれ、恐れ戦いていた。そんな民族は、幾つもの部族にも分かれ、互いを憎しみ合い、戦いが絶えなかった。
モンゴリアの地にて、12世紀半ばの夏のある日、ある二つの部族が戦っていた。
一方はタタール、もう一方はケレイトである。
ケレイトはモンゴリアに存在する諸部族の中で最も強力な部族の一つであった。その証拠として、ケレイトの王では初めてモンゴリア諸民族の中で、初めて部族の君主の意味を持つ「カン」という称号を名乗ったのである。
それに比べて当時のタタールは、強力な部族ではあったものの、ケレイトとははっきりとした戦力差があり、劣っていたのである。もちろんこれは他部族にも当てはまる。
モンゴリアの人々が死神であったならば、ケレイトの人々は何であったか。
この日の戦闘も、結局はケレイトが終始優勢であった。
タタールの部隊は小規模であり、ケレイトには数の差で完全に負けていた。
この頃のタタールは士気が高かったものの、一人、また一人、と、倒れていった。
ケレイトの部隊を率いていたのはイエスゲイという、時のケレイトの権力者の親戚にあたる人であった。
「我らの勝利は確約された!敵軍の長を捕えよ!」
イエスゲイの一喝で、たちまちケレイト軍はタタール軍の内部まで攻め込み、この軍を率いていたものを捕らえた。
イエスゲイの言葉は誠となり、ケレイトは結局圧勝に終わった。
捕虜とした敵将とイエスゲイは、テントにて、顔を合わせた。
「汝、名を何という。」とイエスゲイは言った。
敵将は、少し不満そうな顔をしてから、口を開いた。
「。。。我が名はテムジン・ウゲ、タタールの将軍だ。」
イエスゲイは、その名を聞いて、なぜか感心していた。
「テムジン。。。か。。。いい名を親からもらったものだ。。。。。」
「さあ、早く私の命を絶つのだ。」
「。。。。。。そうはさせない。ひとまず、拠点へ戻るぞ!帰還の準備をせよ!」
イエスゲイの一声でたちまち準備は終わり、彼の心の中には少しだけ引っかかるものを感じながら、帰りの道を歩み始めた。
今回の戦闘は戦闘そのものが小規模だったが、敵将の一人を捕虜とするという良い戦果をイエスゲイはあげることができた。
戦いからの帰り道、イエスゲイと彼が率いるケレイト軍は、大きな宴会を自分達の拠点で開くことを決めた。今回の勝利で皆は歓喜し、また宴会を楽しみにしていた。
そんな中、軍が拠点に帰ると、イエスゲイの妻、ホエルンという女性が、産気づいていた。イエスゲイはさらに歓び、拠点の人たちは、いよいよ将軍に後継が、と出産を待ちわびていた。
そして、日が沈んで間も無く経った頃、彼は産まれた。
「ついに産まれたぞ!俺の後継ぎが!皆の者よ!今日の宴会は特別だ!思う存分楽しんでくれ!」イエスゲイは狂喜した。それは、他の人たちもそうであった。
酒が飛び交い、踊りはより狂い、声の絶えぬ夜であった。
イエスゲイが声をあげる赤子を抱くと、ふと赤子の右手がきつく握り締められているのに気づいた。不思議に思って、こじ開けてみると。。。。
赤いーーーーーおそらく血ーーーーーそれで塗られたような点があった。
一瞬驚愕したが、すぐにイエスゲイは声をあげた。
「皆の者、これを見ろ!我が子の右手には血の眼が彫られている。こいつは将来にモンゴリア全土に名を轟かせる戦神となろうぞ!我らでこの子の武運を祈ろうではないか!」
当然この言葉には他の人々も喜んだ。ついに、ついに、モンゴリア全土の英雄になるであろう者が我が部落が産まれたーーーーそう考えて喜ばぬものがいるであろうか。
狂喜の渦に包まれる中、一人の人が言った。
「そう言えば、名前は、どうなさいますか?」
イエスゲイは、その質問に少々考え込んだが、すぐに何か思いついたようだった。
「そうだ。彼はいずれ戦神となる!彼の出産は、此度の我らのタタールに対する勝利を約束したものであろう!この子は、この戦いを記念してーーーーーー
ーーーーーーテムジン、と名付けよう!!」
喜びは狂喜に隠された。
その頃天空では、巨大な流星群が、空の中を数分間、駆け巡っていた。
それに気づく者は、誰も、いなかった、のである。
この頃、中国大陸では金が南宋に食い込み、西夏も栄えている状況です。
割と関係してくるので、さらっと。