学校祭と後夜祭と花火と
ドンドンドン、と空気を震わす音がする。
ヒュルルルル、と少し間抜けな音がした。
光が降ってくるのを感じて、窓の外へと目を向ける。
花火だ。
薄暗くなった紺色の空に、大量の光の花が咲き乱れていた。
殆どの生徒は、後夜祭ということで学校祭最後の時間を楽しんでいる。
だから、教室に残っている生徒なんて私くらいのものだった。
特にすることもない。
ただ窓辺に椅子を寄せて座って、ぼんやりと落ちてくる光の花を見つめていた。
ヒュルルルル、という間抜けな音に肩の力が抜ける。
その癖に無駄に大きな爆発音で、鼓膜を震わせてはその存在感を見せ付けるのだ。
そうして終わりなんだという物悲しさを見せる。
見せられたとしても、終わるのだからどうしようもないのだけれど。
色とりどりの花火を眺めて、心残りはあるかと問われれば「ない」と即答出来る。
元々、こういう行事は苦手なのだ。
だから終わってくれてちょうどいい。
ふぅ、と短い溜息を吐いて目を閉じると「お疲れちゃーん!」と、馬鹿みたいにハイテンションな声がかけられた。
それから首筋に冷たい何か。
「っ、この、馬鹿っ!」
腕を勢い良く後ろに回して、彼の腹部にダイレクトアタック。
鳩尾辺りに見事ぶつかった私の肘。
彼の手から零れ落ちそうになる缶ジュースは、床に落ちるよりも前に私が回収。
うずくまる彼を見下ろしながら、プルタブを開けた。
ゼロカロリーのスポーツドリンクじゃなきゃ飲めない私の好みを、彼はちゃんと知っていた。
だからと言って、驚かしたのだから鳩尾に一発くらいは甘んじて受け入れるべきだろう。
「大体、何でここにいるのよ……」
缶を傾けながら、窓に背を向けるようにして立つ。
相変わらず花火の音が響いていた。
それでも私達の声はしっかりと届く。
無音の教室が、外よりも少しだけ小さく聞こえる花火の音と私達の声で埋まった。
「寂しいかなぁって」
「むしろ静かで心地よかったわ」
「喉渇いてたでしょ」
「買いに行けるし」
「泣いてるかなって」
「泣く必要がないのよね」
彼が再度うずくまる。
実に鬱陶しいのだが、これはどう考えても何も言うことがなくなってしまったのだろう。
どれだけボキャブラリーが貧困化しているんだ。
学校行事はあまり好まないから、だから皆と楽しく過ごすことはなかなか出来ない。
だから、後夜祭もこうしてのんびりと一人で教室から花火を見届ける。
その度に彼がやって来るのだ。
本当に暇なんだ、と思う。
カシュ、と音を立ててプルタブを開けた彼。
飲み物は炭酸飲料。
ここに来る前に振らさっていたのだろう。
プルタブを開けた瞬間に、勢い良く噴き出した。
「馬鹿だわぁ」
鼻で笑うように言えば、彼は私を見て眉を下げた。
噴き出した炭酸飲料は彼と床をベトベトにする。
外から声がした。
ラストの花火らしい。
「本当、馬鹿」
手を拭いている彼を見てから、私は窓の外に目を向ける。
皆が最後の花火のカウントダウンを始めた。
これで終わり。
五……四……三……二……。
地響きのような花火の打ち上がる音。
濃紺の空から落ちて来る光の花。
「お疲れちゃん」
「……お疲れ様」
高校最後の学校祭が終わった。