僕は『パンだ』!
僕は『パンだ』! 看板を持ってお店の宣伝をしているの!
今日はケーキ屋さんの宣伝。
バレンタインなんだって。わぁ、恋した人たちがイッパイだー!
チョコレートが沢山売れていく。
カカオのニオイが美味しいね!
お店の人が言ってた!
今日のチョコレートは幸せと不幸の両方を呼ぶんだよ?
不思議だなぁ。
今日はホワイトデー!
僕は相変わらず、ケーキ屋さんで客寄せ『パンだ』をやってるよ!
前の所とは別のところだけれど、僕に女の子たちが寄って来てくれて楽しいんだ!
「きゃー、なにこれ? パンダ? 超ウケルー!」とか言われているけれど違うからね!
僕は『パンダ』じゃなくて『パンだ』なのだ!
間違わないでほしいのだー!
パーンだ! パーンだ! パーンだの、たんすっ! あ、間違えた! えっと、ダーンス!
いっぱい、いっぱい、看板振って、愛嬌をふりまくよ!
それが僕のおしごとだから―! パンだ! パンだ! パンだの、ダンス!
あれれれれ~?
お店に「リア充爆発しろ!」って叫ぶお兄さんたちが来たよ!
僕の出番だ!
『パンだ』はね? 看板を使ってこその『パンだ』なんだよ?
『『必殺☆爆破お断りすまーっしゅ!』』
むぅ、「なんだこのパンダ着ぐるみ! 破壊力すげーぞ!?」なんて言われても知らないもん!
僕は『パンダ』じゃなくて『パンだ』なんだ!
白黒の体で、もこもこでも、あいつら『パンダ』とは違うのさ!
僕は『パンだ』だからね!
さァ、どこからでもかかってこい! 恋に破れたバカ者ども!
ロケットランチャーだってこの看板で撃ち返してやる!
ぶぅんっ、ぶぅんっ、なのだ! 素振りの音を看板で表現するのだ! 看板は便利なのだ!
あ、逃げてった。僕に恐れをなしたか! エッヘン!
僕は『パンだ』! 今日もお店の平和を守るのだー!
◇ ◆ ◇
「如何でしょうか? こんな着ぐるみの案は」
「桜花クン、はっちゃけたねぇ。つかマジで言ってる? これ売れると思ってんの?」
とある玩具会社の社屋の一室で、男たちは密かに計画を練っていた。
「はい。売れますゼッタイ。『可愛い』は正義と巷の女子の間で流行っているとおっしゃったのは父上、いえ、社長の方ではありませんか!」
きらきらと目を輝かせて興奮気味に力説する少年、桜花。
対して社長、紫楽は頭を抱えて今までの自らの行いを少しだけ、すこーしだけ反省した。
「うん。ごめん。ごめんね? 桜花クン。仕事を回し過ぎたんだね。君がこんな案を持ってくるなんて、ごめんね? ごめんね、桜花クン。僕、もう少し仕事配分を考えるから休みなよ」
桜花はジト目になる。
「売れますよ。絶対。売り出してください。ダメならアイテム化だけでもっ。というかぶっちゃけますと我がこういう根付けを欲しいんですよね。喋るぬいぐるみなど、仕事の時に傍に置いておくと癒されて可愛いじゃないですか」
紫楽は苦悩の表情だ。
やはり幼子に三徹はきつかったらしい。
この子は一人で仕事を抱え込み過ぎる傾向にあることを忘れていた!
だから事あるごとに休めと言っただろうにっ! このバカ息子が!
机の引き出しから、ボタン型音声マイクと布、わたを取り出して、紫楽は気晴らしに裁縫を始めた。はぁ、と溜息が出る。
「桜花クン、マジ御免。試作品を作ってあげるから、企画書をもっといで。人員不足だからって君を頼りっぱなしで悪かったよ。僕もちょっと本気出してしばらく仕事するからさ? これが終わったら遊んでおいで」
「嫌です」
「え? 待ちに待ったお休みだよ? いやなの?」
「ええ、嫌です。父上も一緒に休みましょう! 会社の皆で花見の宴に行きたいです!」
ええ子や……。
紫楽は目頭を押さえて、最後の一針を刺し終わり、玉留をした。
出来上がったのは『パンだ』と刺繍された看板を持つ白黒ぱんだのぬいぐるみ。
喉元を押せば『パンだ』と喋るのだ。
紫楽は息子にそのぬいぐるみを差し出した。
「………構ってやれなくてごめんね? 行こう! そしてこの『パンだ』もヒットさせよう!」
「父上、無理してぶっ倒れたり、唐突に奇声上げて出奔したりしないでくださいね?」
「おまっ、人がやる気出してる時に、ちくしょう! 言い返せねえ自分がツラいぜ! 宴会に三味線もちこんでやる! 酒だ! 桜だ! 商売だー! 稼ぐぞこらっ」
桜花は完成した『パンだ』ぬいぐるみを受け取って、にっこりと嬉しそうに笑った。
◇ ◆ ◇
ほどなくして、株式会社『風由』から珍妙な白黒着ぐるみの『パンだ』キャラクターがシリーズ化されて販売された。
この幕末の時代に珍しく愛らしい2Dふぉるむ。
桜花の言う通り、また紫楽の商才が優れていたためか、『風由』の社員が優れていたためか、ゆるキャラ『パンだ』は、世に一大ブームを巻き起こしたとか、いないとか。
全ては噂の中の話。噂の中に『パンだ』有り、である。
完。(多分続かない)
追記改稿。
2015/03/20 00:30分頃。
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ええ子や……。
紫楽は目頭を押さえて、最後の一針を刺し終わり、玉留をした。
出来上がったのは『パンだ』と刺繍された看板を持つ白黒ぱんだのぬいぐるみ。
喉元を押せば『パンだ』と喋るのだ。
紫楽は息子にそのぬいぐるみを差し出した。
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以上を追記いたしました。申し訳ありません。
ここまでお読みいただき、有難うございます。