今年の冬
お試し投稿第一弾。第二弾はありません多分。
――なんと突拍子もなく、底抜けに馬鹿なことを聞いているのだろうと思った。
目の前の君の戸惑いが痛いくらいに伝わってくる。
心臓に直接縄を括りつけられて締め付けられているかのような心の圧迫。
何時間でも浸かっていられるぬるま湯のような居心地の良さに甘えていた。
人生この先、順調に生き続ければ六十年を横並びで歩んでゆけると思っていたのは魯鈍な私の勘違いに過ぎなかった。
ぬるま湯にすっかり体が慣れてしまった私を置き去りに、君は次へと疾走する。
ここで道を譲ればそうなることは分かっていたけれど、今、君の瞳に私はいない。
君の思い描く未来予想図――その隣に、私はいない。
「なんでもない。なんでもないから、先を急ぎなよ。私は大丈夫だから」
一世一代の大嘘を抜かし、私は一人になった。君は二度と手の届かないところへ行ってしまった。伸ばした手は虚しく夜の冷気を切る。
どうして私じゃダメだったんだろう。
一途に想い続けて、結局は打ち明けないまま終わってしまった初恋。
「…………ヤンデレになる根性もないし、ね」
孤独を嘲笑うように弱々しい秋風が吹く。
今年の冬はきっと、例年よりもずっと寒い。