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国立妖術大学付属東高等学校、通称東校の校門前に一台の車が止まった。登校時間が間近にせまり辺りは通学途中の生徒で溢れている。黒いセダンの高級車はそんな学生たちの注目を一身に浴びている。


運転席から30手前くらいの青年が降り立った。燕尾服に身を包んだキリットした顔立ちの青年は如何にも良家の執事らしく、すらっと高い背をピンと伸ばし緩やかにお辞儀をする。同時に後部座席のドアを開け中の主人に手を差し出す。


みさきは手をとり車から降り立つ、拓海もそれに続く。


「拓海様、いってらっしゃいませ。みさきお嬢様、本日のお帰りのお時間は?」


丁寧な物腰で問いかける。


「今日は真理姉と帰るから迎えはいいよ。朝の送り迎えもやなんだけどなぁ。」


みさきが周りの視線を気にして溜息をつく。


「なりません、お嬢様。私が旦那様に怒られてしまいます。」


恭しく執事が言い放つ。


「おいおい、みさき。あんまり矢倉さんを困らせるなよ。まだ中学生のお子ちゃまなんだから。」


拓海はみさきの頭をポンポンっと撫でながら不満気な表情の少女を窘める。


「もー拓海兄ったら子供扱いしないでよ。わかったよー高校入るまで、矢倉さん、あと少しお願いね。」


2人は矢倉を後にし校内へ歩いて行った。


中等部と高等部では校舎が違い、隣立って歩いていた拓海とみさきは別れてそれぞれの校舎へと入っていった。




「おはよう、なんの話だ?」


教室に入るといつものメンバーが拓海の席の周りで雑談に華を咲かせていた。


「おっす、拓海おはよう。年始の妖雄祭の話だよ。」


机に腰を掛けている色黒の少年が言った。


「九頭竜君おはよう。今回はセブンズの入れ替えあるのかなって。」


眼鏡をかけた少女がにこやかにほほ笑む。


「おはよう、拓海君。それと前回若干14歳ながら大人を圧倒した力を見せつけた龍族の天才少年についてもね」


眼鏡の少女の隣で短いスカートからスラッと伸びた白い透き通るような足を組みながら、片目を瞑りウィンクを拓海に投げ少女はニコッと笑みを浮かべる。


「おいおい、天才少年だなんてからかわないでくれよ。前回は九尾の御前にコテンパにされたからな。それはともかく、智弘も直美も美紀も予選は出るんだろ?」


すると隣で足を組んでいた少女は勢いよく立ち上がり、片方の手で拳を作り反対の手にパチンと当てた。


「出るよ。今年も本戦の妖雄祭には出場するつもりだからね。拓海くん応援に来てよね。」


「ああ、年明けは少し落ち着くはずだからな。もちろん智弘と直美の応援もな。」


拓海は入学以来クラスメートのこの三人と行動を共にしている。


三人とももちろん妖人であり拓海と同じ寮生でもある。


色黒の体格のいい少年が智弘、眼鏡をかけた優しそうな少女が直美、スタイルのいいお転婆そうな少女は美紀という。


4人がそんな話をしているとチャイムが鳴りそれぞれ三々五々自分の席へと戻っていった。




午前中の授業は座学だったので、拓海は授業をボーっと聞きながら先ほど話題に上がった前回の妖雄祭を思い返していた。


龍族直系の天才少年として鳴り物入りのデビューを飾った拓海は中学2年生ながら圧倒的な妖力と戦闘力を見せつけ、他を圧倒したのだった。


しかし、迎えた準決勝戦、現日本最強、世界でも五指に入るといわれている「九尾の御前」を前に大敗を喫したのであった。とはいえ、その年にして既に「竜王」の力を持っていた拓海の力は広く日本の妖人界に知れ渡ることとなり鮮烈なデビューを飾った。そんな拓海の奮闘の甲斐もあり龍族は妖雄七族序列三位の位置に至る。




あれから二年か・・・前回の雪辱はきっちりと返さないとな。今年は真理もみさきもいるし大丈夫だろう。それよりもまずは明日の竜王祭のほうを何とかしないといけないな。「あの男」に追いつくためにも。


ぼんやりと物思いにふけっていると午前中の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。




「あー腹減った。早く飯食いに行こうぜ。」


大きく伸びをしながら智弘が促す。寮住まいの4人はいつも昼食はカフェテリアで食べているのだが、拓海だけはカフェテリアのランチメニューではなく毎朝真理が作ってくれるお弁当を頂いているのである。


いつものように智弘ら3人が昼食を取りに並んでいる間に拓海が席を確保する。程なくしてそれぞれ昼食を手にした3人が席につきようやく拓海も弁当を食べ始める。


今日の昼食の話題は今朝から引き続き妖雄祭についてだ。


「うちは前回本戦出場権を逃しちゃったからな。今年は私が頑張らないと。」


最後の一口を食べ終えた直美がふーっと力を入れる。


「でも、寮生活が始まってから相当強くなったよな。ホント同じ学年に拓海がいてくれて良かったぜ。」


智弘が二杯目のドンブリにがっつきながら言う。


「大袈裟だよ、みんな妖力は高かったんだからあとは使い方だけだったわけだよ。それよりこの後はどうする?一応第二演習場は抑えてあるけど。」


拓海は携帯端末を操作しながら3人を見る。


「はいはーい。今日は私の番だよね。週末新しい術開発したから試してみたいのよね。」


元気よく立ち上がり美紀が右手でピストルの形を作り拓海に指先を向ける。


「じゃあ早いとこ行こうぜ、午後の授業まであっと30分しかないぞ。」


智弘の発言で残り3人も立ち上がり、一行はカフェテリアを後にした。




長方形の形をした第二演習室は体育館ほどの広さを有しており、4人で使用するには些か大きすぎるように見えた。


中央部からおよそ10メートルずつ距離を取ったところで拓海と美紀は相対した。智弘と直美は部屋の隅に並んで立って2人を見守っている。


「いくよ拓海君」


そう言うと左手の甲の紋様をスッと撫でた。すると、美紀の体青白い光で覆われ右手に水色のマフラーが現れた。


美紀がマフラーを宙へ放り投げるとそれはねじ曲がり曲線を描いた棒状へと変形された。素早く空中のマフラーを左手でキャッチすると拓海に対し、横向きになり弓を射るような姿勢を取った。神器「雪襟巻」モード雹弓。


美紀が雹弓の透明な弦を弾き、狙いを定めて射ると三角錐型の氷塊が拓海目掛けて飛来していく。拓海は素早くステップを踏み横へ交わす。


驚いた顔をして美紀が絶叫する「マジで、あれを避けちゃうなんて。さすが拓海くんね。でもまだまだこれからよ。」


美紀が気合いを入れると体を覆っていた青白い光が増幅する。今度は雹弓を横向きにし拓海目掛けて弦を弾く。


すると今回は無数の氷の矢が放射状に拓海に襲い掛かる。さすがに避けきれないと判断した拓海は体の前に手をかざし術を唱える「火龍・防火門」。


すると眼前に暑さ5cmほどの炎のの壁が現れ、美紀が放った氷の矢が吸い込まれ溶けてしまう。美紀の氷の矢を炎の壁で相殺した拓海が美紀の方に目をやるとそこに彼女の姿はなかった。


炎の壁により拓海の視界が閉ざされているうちに猛然とダッシュし拓海の懐に潜り込んでいたのだ。


美紀の右手には先ほどとは違い剣のようなものが握られている。神器「雪襟巻」モード氷刃剣。


ぐっと足に力をいれ床を踏みつける。立ち上がる力を利用してそのまま拓海に切りかかる。


拓海は一瞬遅れて足元に潜んでいた美紀を見つけ、冷静に対処法を考える。回避は間に合わない。素手で受けるにしては斬撃があまりに鋭く失敗の可能性がある。


拓海が出した結論は妖術による対抗であった。拓海が術を唱えると拓海と美紀との僅かな隙間に氷の壁が現れる。美紀の斬撃が壁を砕かんとする勢いで襲い掛かるが高い音を立てて逆に割れてしまう。


そして刹那、美紀の左右から前方にあるものと同じ氷の壁が現れる。焦り、美紀は後ろに下がろうとするが僅かな差でまたもや氷の壁が現れ美紀の四方を隙間なく囲む。「氷龍・鏡囲網」。


ただ一つ、唯一の逃げ道となっている上方を見上げる。すると氷の壁に飛び乗った拓海が閉じ込められた美紀を見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべる。


「チェックメイトだ、美紀」


美紀はその場に座り込み脱力する。


「結構いい線言ったと思ったんだけどな。拓海くん、きみの術、発動スピード反則級だよ。」


ほっぺたをぷくっと膨らませ文句をたれる。


と同時に予鈴のチャイムが鳴り、一行はお昼の妖術合戦を終わりにし教室へと戻っていった。

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