プロローグ一
プロローグ一
「旦那様、こちらの201号室です。」
築30年は経とうかという古アパートの前に似つかわしくない高級車が停止した。後部座席のドアが開かれるとともに足早に身なりのいい初老の男が降り立った。
「ご苦労、しばし待たれよ」
ところどころ白髪の混じった灰色の頭髪を綺麗に整え、黒の袴に身を包んだその老人は荘厳な顔つきで運転手の男に言い放った。
ようやくだ・・・ようやく見つかった。この5年実に長かった。
こんなことになるんだったらあの時止めていれば、あるいは・・・
いや、今さら考えてもしょうがない。これからは生涯をかけて守らなければ。それがワシの残された最後の使命だ。
その老人は足早に階段を駆け上った。201号室の前に辿り着き、ドアノブに手をかけようとすると同時にガチャリと目の前のドアが開いた。老人は驚き一歩後退すると中から幼年期であろう少年が出てきた。
将来が楽しみになる可愛い顔付をしていものの、その眼はどこか生気を失っているようにも見える。
「おじいちゃん、だれ?」
ふと発せられたその言葉を聞くとともに老人は膝から崩れ落ち、少年を抱きかかえた。
「おじいちゃん、どうしたの?」
少年の顔をまじまじと見つめ震える声で「お母さんはいるかい?」と
聞く老人の頬には涙が伝っていた。