N氏と悪魔in北極
悪魔が北極でワカサギ釣りをしていると、突然目の前に見知らぬ男が現れた。
「どうも、私はN氏といいます」
悪魔は首を傾げた。N氏という名には聞き覚えがある。確かこのワカサギ釣りを終えたら訪問する予定の男の名だ。今頃は家でTVを見ている筈だが、何故こんなところに居るのだろう。
N氏は微笑むと一歩、悪魔に歩み寄った。
「実はあなたが沈黙している間に世界は色々変わりましてね。私の発明した機械のおかげで自らの身に起こることを15分以内であれば察知できるようになったのです。といっても、まだ試作品なので試せるのは私と助手だけなのですが」
悪魔は顔をしかめた。どうやら自分はのんびりしすぎたようだ。
「あなたが来るというので昔の文献を色々と探してみたのですが、それによると、あなた方は人の願いを叶えてくれる存在のようですね。しかし引き替えに死後の魂はあなた方に持っていかれるらしい」
「そこで私は考えました。私の願いを叶えてもらうのもいいですが、逆にあなたの願いを私が叶え、引き替えにあなたの身体をもらうというのはどうでしょう」
悪魔はポカンと口を開け、そしてけたたましく笑い出した。
「人間が悪魔の願い事を聞く? そりゃ傑作だ。初耳だ。そんなこと出来るわけがない」
「やってみなければ判らないでしょう。さあ願い事を言ってみてください」
N氏はむっとした顔つきで言う。
悪魔は口を顔いっぱいに広げた。
「じゃあこういうのはどうだ。お前は俺の願い事を叶える。もしお前が俺の願い事を叶えることが出来たら、俺の身体は自由にするがいい。ただし、もし叶えられなかったら、お前の魂は俺が頂く。悪魔だって人間の願い事を叶えることが出来なかったら消滅するんだ、叶える方にだってリスクは必要だろう」
「わかりました」
N氏は真面目な顔で丁重に頷く。
悪魔は顔いっぱいの口で笑った。
「では人間の進歩を無かったことにしてくれ」
N氏は2分ほど沈黙すると、徐ろに一歩下がった。
悪魔の笑いが止まった。