訪問者への独白
事実は小説より奇なり。
小説ではありふれた展開だったけれどまさか自分に降りかかるなんて思ってもいなかったね。
異世界への転生。
ましてや私は研究者だったからさ。
娯楽と自分の常識っていうのかな。ありえないって思ってたんだよね。
読む分には割と好きだったんだけど。
私の場合記憶は赤ちゃんからだったけ赤ちゃんの頃なんて大昔のこと、今更思い出してみると大雑把にしか思い出せない。
べつに完全記憶能力とか持ってるわけじゃないし。
でも、やっぱり恥ずかしかったって感情ははっきり覚えてるよ。
転生先は典型的なファンタジックな世界でね。
代表的な異世界の住人は大体いるようだ。
ぜひ解剖した………いやなんでもない。
私にとってその辺に生えている草から害獣まで何から何まで興味深い。
幸い、私の種族は人間じゃなかった。
なんの種族かって?
人間はひとまとめに魔族と言っている種さ。
実際はもっと色々細かく分けられるんだけどねえ。
それはまた今度話すことにしようか。長くなる。
どこが幸いだったかと言うと寿命が長いことだ。
私の種族は魔族の中でも長寿で有名でね。エルフにだって負けてない長寿っぷりさ。
かくいう私も確かじきに300歳になろうかというお年頃。
人間なら20歳そこらくらいかな?
まったく、研究する身としては時間があるというのは素晴らしいことだ。
そうそう、こちらでも研究者として生きているんだ。
確か前回死んだのは過労のようだったから、今度は失敗しないようにしなくては。
たかが2か月ろくに寝ていないくらいで死なないで欲しいものだよね。
その点、魔族は体が丈夫だから平気だろう。
はは、魔族万々歳だね!
ついこの間、町はずれに広い土地を買ってね。
少々ぼろかったが大きい屋敷が2つの倉庫付。いい物件だろう?
まあ、掃除とリフォーム代はかかったものの同じ規模の建物を建てるよりは安くついたはずだ。
山ほど本を持っていたから片方の屋敷は半分図書館の様さ。
棚をそろえるのも一苦労だったっけ。
ああ、お金?どっからそんな大金出したかだって?
もちろん稼いでためたものさ。
私にはチートらしきものはなかったが魔力も弱い方ではなかったし、魔族は基本的に人間より力持ちだ。
生まれた家は貴族ではなかったものの、庶民にしては裕福だったから学ぶ余裕があった。
自分で言うのは照れるが手先は器用でね。
少々高価な薬を作って売る間に瞬く間にお金は貯まったんだ。
付け加えるなら私には良い商人の友達がいてね、きちんと正規の値段で買い取ってくれたのも大きいな。
持つべきものは素晴らしき腹黒い友だ。
今だって定期的に薬やらなんやら降ろしているから研究費には困らない。
足代はとられるが品物の引き取り、材料や食材を運んでもらってる。
以前夢にまで見た引き籠り研究生活がここに完成したのだよ。
誤解のないように言えば、半年に一回くらいは外出するし友が訪ねてくれれば快く出迎えるつもりはあるぞ?