八話
言い終わった直後、頬に痛みが走り視界がぶれた。一瞬遅れて頬を叩かれたと分かった。
『どうしてそんなこと言うの。』
頬を叩いた右手をこちらの頬に添え、目を逸らせないようにされた。
『私のお母さんも冒険者だったの。それも有名な。』
なにを?――――
『10年前、北にあった大国で大きな災害級の事件が会った時、お母さんは真っ先にその国に行ったわ。みんなを助けると言ってね。』
『仲間たちとその国に行って多くの人を救ったわ。まさに英雄と言っても良いぐらいの偉業だった。でも……』
一呼吸間を開け続ける。
『帰って来なかったわ、誰一人として。詳しくは分らないけど、災害が広がることを防ぎ、みんな死んでしまったの。』
『必ず帰るって約束してくれたのに……』
目を潤ませながらも話をやめない。
『みんな泣いたわ、私もお父さんも村のみんなもお母さんを知る人は皆。』
『誰かがいなくなって悲しむのはみんな同じなの。それはあなたでも同じ。あなたに何かあったら、私も村長も要さんも理子ちゃんも、これから出会ういろんな人が悲しむの。』
『あなたを独りにさせないわ。私が一緒にいるから。』
いつの間にか近づいていた愛華さんに抱きしめられた。振りほどかずされるがままになる。
その体は暖かく、ドクンドクンと心臓の音が聞こえた。
『だから死んでも良いなんて言わないで、絶対に。』
『…………はい。』
『うん!じゃあこの話は終わりね!』
抱きしめていた手を放し、パンッと手を叩く音と共に話を変える。もうその顔は笑顔に変わっていた。
『明日はまずこの世界についての勉強をしましょう。そのあと村を簡単に見て回って夕方に集会に行きましょう。』
『はい分かりました。』
『これからは、私があなたの家族になるからね!』
『はい分かりま…………え?』
家族?
『そう家族よ。私とあなたは家族、これから一緒にここに住むのよ。同じことでしょ。』
同じなのか?何だか強引に話が進んでいるような気がする。
『はあ……分かりました。』
『だめよ敬語はなしで。』
『……わかったよ愛華さん。』
『さんはいらないわ。』
『いままで人を呼ぶ時はさん付けが基本だったんだけど。』
顎に手を当てている。考えているんだろう。
『まあいいわ。あなたにとって話しやすい方がいいでしょうし。』
よしとつぶやき立ち上がった後、こちらに手を伸ばした。
『えっと……何?』
『握手よ握手。これからよろしくという事でね。』
最初はお淑やかな人だと思っていたが違ったようだ。
『では、改めてこれからよろしく。』
手を握る。美しいその手はとても滑らかな肌触りだ。
『ええこちらこそよろしく。』