七話
村長一家に見送られ家路につく。すでに太陽は沈み、空が黒に染まり始めていた。
村長は明日の夕方ごろ村の集会をし、その時に村人に紹介すると言っていた。
『…………』
空気が重い。何かを放そうとしたが妙な圧力を感じ、何もできずただ歩いている。すぐに家に着いた。暗い部屋に明かりをつける。
『あの――』
『座って。』
遮られた。何だか分からないが非常に不味い気がする、と思いつつテーブルを挟んで向かい合うように椅子に座る。
『さっきの話なんだけど。』
出されたお茶を互いに一口飲み、愛華さんが話し始めた。
『?どの話ですか?』
『村長の家で言った恩返しの話よ。』
『迷惑でしたか?』
今からでも村長の家に行った方がいいんだろうか。
『違うわ。大体迷惑だと思うのなら、自分から面倒を見るなんて言わないでしょう。』
確かにそうだが、何が言いたいんだろう。
『そのあと命を懸けるって言ったわよね。』
『自分は本気ですよ。』
すぐに返す。考えるまでもない。
『まだ冗談の方が良かったわ、どうしてそんなこと言うの。』
…………
『自分の……』
喉をお茶で湿らせ話す。自分の本心を、そして恐怖を。
『自分の母さんはもともと体が弱く、11年前に何かの病気にかかって死にました。幼い自分は何もできませんでした。』
母さんの顔を思い出す。家から出ることができず、ほとんどベットの上で過ごしていた母さんはずっと笑っていた。
『父さんは、買い物に出た時に通り魔に刺されて死にました。自分はその時学校にいて、次に会った時は全身真っ白になって顔を見る事も出来ませんでした。』
父さんは頑固だったが優しかった。男手一つになり、大変だったはずだが自分を高校に通わせてくれた。自分が就職し社会に出て恩を返す前に突然いなくなった。
『自分は独り法師になりました。』
特に親しい友もおらず、バイトはしていたが掛け持ちをしていて、ほとんどバイト仲間と遊んだことはない。
『人間は、簡単に死んでしまう。』
そう、これが17年間生きてきてやっと分かった事だった。人間は死ぬ。病気で死ぬ。切られると死ぬ。些細な事で突然、何の前触れもなく死んでいなくなってしまう。
『それが怖いんです。親しい人が突然いなくなるのが。自分だけが取り残されるのが、とても怖い。』
『だから自分が全力で守ります。一人になりたくないと思うから。悲しいのは、もういらない。』
その為なら――――
『そうなるぐらいなら、いっそ自分は誰かの為に死にたい。』