六話
『なるほど大体分かった。』
愛華さんの説明にいくつかの補足を入れた自分についての話が終わり、豪快にお茶を一飲みして村長が話し出した。
『それでこれからどうする?』
しばし考える。自分は、この世界に来たばかりで何も知らない。頼れるのは愛華さんと村長一家ぐらいしかおらず、一人では何もできない。
『自分はこの世界に来たばかりで何も知りません。出来る事もほとんどないと言ってもいいぐらいです。』
一口お茶を飲み、こちらを睨みつけるように見る瞳に目を合わせ続ける。
『だからと言って何もしないなんてふざけた事を言うつもりは、かけらもありません。』
『じゃあどうする。』
催促の言葉に対し告げる。偽りのない本心を。
『教えてくださいこの世界の事を。まずは知識が必要です。生きるために。』
『それから?』
『まだ分かりませんが少なくとも――――』
横を向き、その驚いた顔を見つめ自分の中ではっきりとしたやるべき事を告げる。
『誰とも知れない自分を助けてくれた愛華さんに恩返しをしたいです。』
これだけは、はっきりとしていた。自分の命を助けてくれた愛華さんにまだ何も返せていない。それこそ――――
『命を懸けても。』
部屋の中から音が消えた。風すらも動きを止め静寂が満ちる。自分の話を理解したのだろう、愛華さんも村長も要さんも、幼い理子ちゃんすらも息をのんだ。沈黙を破り、最初に口を開いたのは村長だった。
『お前がそれを本気で言ってるのは分かった。だがな――――』
瞬間文字通り、息が止まった。鋭すぎるその目に、感じる圧力に、ほんの数秒だが思考が停止したのが辛うじて分かった。
『命を懸けるなんて絶対に言うな考えんな。』
その低い声にうなずいた、否“うなずく事しか出来なかった。”その言葉をまだ完全に理解できないが、おそらくこの瞬間のこの言葉は一生忘れないだろう。
『そんなに若い人をいじめないで下さいよ大五郎さん。理子までびっくりしているじゃないですか。』
静寂を破ったのは要さんだった。
『…………ああ分かったよ。だが充吾この事を忘れるなよ。』
心臓をわし掴みしていた圧力がなくなった。荒い呼吸を繰り返す。この人は、ただ者じゃないと本能で理解した。
『とにかくこれからだが――』
『私がこの子の面倒を見ます。』
愛華さんが割り込むように告げる。
『この子を最初に見つけて保護したのは私です。私が面倒を見るのが筋でしょう。』
『まあそうだが……どうする充吾?俺んちで面倒見てもいいがよ。』
どちらかなら、自分は。
『愛華さんの世話になろうと思います。その方が恩も返しやすいでしょうし。』