五話
『はい、どうぞ。』
女性の声がする。村長は女性なのか、それとも村長の奥さんだろうか?とにかく入ってみよう。愛華さんの後に続き戸をくぐる。
『こんにちは村長さん。』
『おう来たかまあ座れ。』
どうやら、ここはファンタジー世界で間違いないようだ。なぜならそこには、見まごう事なき野獣がいたからだ。部屋の真ん中にある木製のテーブルに座る野獣は、短い茶髪の頭に赤いバンダナを巻き、これでもかと筋肉が詰め込まれた剛腕に茶色の布を持ち、己の武器であろう巨大な槍(銛だろうか?)を磨いていた。
『俺が水風村の村長の力武 大吾朗だ。』
ああやっぱりかと現実逃避をやめる。どこに行ったんだ優しい村長よ!!
『初めまして、自分は安藤 充吾と言います。これからよろしくお願いします。』
と言い軽く頭を下げる。礼儀は大事。
『ほー礼儀がなってるじゃねーか気に入ったぜ。おい!!要、理子お前達もこい。』
後半は、叫ぶように言う。礼儀正しくして良かったと胸をなでおろしつつ、廊下から聞こえてきた足音に耳を傾けるとやがてドアが開かれた。
『そんなに叫ばなくても聞こえてますよ。お茶も準備しましたから、ゆっくりしていってくださいね。』
先ほどの声はこの人か。美女と野獣と言った所だろう、その女性はとても美しかった。金色の髪を後ろでまとめポニーテールにし肩より少し下まで伸ばしている。愛華さんより豊かなその双丘は母性の象徴という言葉を一瞬で理解できるほどの力を持っている。とその女性を見ていると――――
タタタタタタッ
と走るような足音が聞こえ、視線を下にずらし――――
『うお!』
腹に衝撃を受けた。高速で走ってきた何かが、突撃を敢行したらしい。その衝撃に驚きつつ視線を落とすと、そこには小さな少女がいた。村長と同じ茶色の髪をツインテールにしクリっとした丸い目をこちらに向けている。
『おにいちゃん。』
…………今何と言った?おにいちゃん?どういう事だ、訳が分からない。初めて会ったはずだが?
『ほう理子が一発で懐いたか。すげえなおい。』
『そうですね珍しい。』
……なんだこれ……
『理子、今からお母さん達大事な話をするからこっちにいらっしゃい。』
しばらくこちらを見た後、膝に座っていた少女は素直に母のもとへ行った。気持ち良さそうに頭を撫でられている。
『まあ少し驚いたが紹介する。妻の要と娘の理子だ。』
『妻の要です。これからよろしくね。』
こちらを向き微笑む。
『理子は、理子だよ。5歳!』
五本の指を全力で立てた右手を伸ばし笑う。元気がいいな。軽く微笑み手を振る。
そして愛華さんが説明を始めた。