三話
暖かいお茶を一口飲み、改めてこの女性を見る。
輝くような美しい白銀の髪を腰まで伸ばし風に揺らせている。目じりが垂れ、人に安心感を与える柔らかな笑みが浮かぶ顔はアイドルだと言われても信じてしまう程に美しい。白を基調とした服装もよく似合っている。
『ふふ……そんなに見つめられると恥ずかしいわ』
『あ!……そのすみません……』
あわてて謝る。少し無神経だった。
『そんなに謝らなくてもいいわよ。』
顔から火が出そうだ。ごまかすようにまたコップを傾ける。とても美味しい。市販の物とは、比べ物にもならないほどに。
軽く深呼吸をして落ち着かせ彼女に話しかける。
『あの……聞きたいことがあるんですけど……』
『ええいいわよ』
『まず、ここはどこですか?昨日の夜は、自分の家にいたはずなんですけど。』
『ここは、八州皇国の波風州にある水風村という小さな漁村よ。ちなみにあなたは、近くの浜辺に倒れていたの……覚えてる?』
はっしゅうこうこく?なみかぜしゅう?聞いたことがない。どういう事だ?素直に知らないと言うと、少し驚いた後納得したようにうなずいた。
『あらあなた異界人ね。見た事ない服を着ているわけも理解出来たわ。』
『異界人ってどういう意味ですか?』
『簡単に言えば、別の世界から来た人の事よ。あなたの世界には、いなかったの?』
お茶を飲み終わったコップをトレーに戻しながら言う。
別の世界?そんな事急に言われても…………
『うーん……あなたの世界に、魔術ってあった?』
(今度は、魔術だって?)
『いえありませんでした。』
『じゃあこれを見て。』
白魚のような美しい手を伸ばしてきた。
『えっと……』
『何もないことを確認して』
緊張しつつ手を見る。何もないようだ。
『見てて』
と言い、手を先ほどお茶を飲んだコップにかざす。
『水よ』
すると、掌から水が流れ空のコップに注がれていく。
『どうかしら。』
驚いているとコップを差し出された。中には、先ほど掌から流れた水がたまっている。冷たくて美味しそうだ。この現象を、自分では説明できない。
『……分かりました。あなたを信じます。』
『あっさりと信じるのね。もっとかかると思ってたわ。』
『死んだ父さんが言ってました。世の中には、自分の知らない事が山ほどある。否定せずに受け入れろと。』
ふと顔を上げると。
『おぶっ』
いきなり抱きしめられた。豊満な胸に顔をつぶされ息がしにくい。
『なっなひをひへ。』
『だって、あなた泣いてるもの。あなたが、お父様を愛していて、悲しんでいることぐらい分かるわ。』
抵抗をやめた。いつの間にか出ていた涙もふけずそのままになる。ふと幼い頃、母さんに抱きしめられながら眠っていた事を思い出した。