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シュークリーム

「えっマジで暗がり連れていくんじゃないでしょうね」

朱里は半分おびえたように言った。

調子にのってかなり失礼な事を言ってしまったからほんとにキレたのかもしれない。


「この会話、こんな大通りでしたくないだけだよ」

薫はそういうと朱里をちらっと見て、先に進んでいくので、朱里もあわてて追いかけた。



薫の入った店はスポーツジムの角を曲がったところから2分くらい歩いたカフェテリアのような店だった。ガラス張りの中は暗くてあまり見えないが、外からでも食べ物の入ったショーケースのようなものが見える。

中に入ると、音楽が少しうるさいくらい鳴っている。ジャズっぽいリズムではあるけど、少し騒がしい感じの曲だ。

セルフサービスのようで、レジのあるほうへ行くとメニューの書いてある黒板があって、そこには飲み物の種類が書いてあった。コーヒーからお酒まで、なんでも飲ませてくれるらしい。


「コーヒーでいいか?」


「はい」


「飯は?」


「まだ」


「そうか、ここ払っとくから席取っといて」

薫に言われて朱里は二人席を探す

おそらく、カウンターということはないだろう。

窓際は・・・私は好きだけど、でも外から見えるから誰かに見られて、誤解されるのはお互い面倒だ。

というよりも、あんな目立つ男と座ってるのを見られたら、私が不釣合いだと蔑まされる気がする。

そういうのは私が無駄に傷つく羽目にあう。

それで人に見つかりにくい奥のほうの二人席を選ぶ


「・・・ここか」

コーヒーを載せたトレイを片手に持って薫がやってくる。

朱里の向かいに腰を下ろすとコーヒーひとつ、自分の前に置くと、トレイごと朱里の前に置く。

そこにはコーヒーだけでなく、サンドイッチとシュークリームがあった。


「甘いの、食えるか?」


「はい、あの・・・いくらですか?」

そういえば、前に工場の近くで食べた、から揚げ定食もおごってもらっていた。

あの時はいうタイミングをすっかり失ってしまったからお礼もちゃんと言えていなかった。

今回は出したほうがいいかも。


「いいよ、そういうのめんどうだから・・・それにそれくらいの飯おごっても、問題ないだろ」


「へ?」


薫はにやっと笑う。


「フルコースならともかく、お茶代くらい出しても、おれがお前を好きなんじゃないかって、おまえが勘違いするようなことはないだろ?」


さっきの「飯作るから云々」のセリフのお返しだよ、そういうと朱里の顔を覗き込んだ。


つい朱里はふきだしてしまう。


それはないなぁ、だって・・・石橋薫が私ごときに・・・じゃない



「ありがとうございます、では頂きます」

そう朱里は言うとサンドイッチを包んでいた透明のフィルムを外して、早速食べる。

もう遅い時間だし、作り置きしてあったものだったのに、野菜はみずみずしくて濃厚だ。

入っていたチキンもしっかりローストされた味がする。


「おいしい・・・」

薫を見ると、気にしないでいいから食え、という顔をする。

それで朱里は薫を気にしないようにして、サンドイッチに再びかぶりついた。




「・・・いっとくけど、さっきのアレ・・・酔った女が云々っていうのはさ、ほんとに一度だけだし、

やったことはずっと後悔してるんだ」


口をもぐもぐさせていると、その間の時間をもたせるタイミングで薫は言う。


「別に女に困ってたわけでもなかったし、その女が悪いやつだったわけでもない」


しばらく無言で食べる、わからないわけじゃない、でも女のほうはものすごくショックだっただろうな

・・・こんなに素敵な人にそういうことになって・・・でも、朝目が覚めたら彼は消えていて、自分がそんな扱いを受けていい存在だったなんて思わせられるなんて・・・

朱里の背筋がゾクっとした。


「あの時は・・・」


薫が何か言いかけたが、朱里は話題を変えたくて、さっき途切れた話を持ち出す。



「里美ってどう思います?」


そういうと、シュークリームをかじる



「・・・里美ちゃんねぇ・・・」

話を途中でさえぎられたせいか、薫は少しムッとした顔をしている。


「確かに可愛いし、悪くはないけど・・・おまえの知り合いだと思うと手は出せないな、なんかあったら後からいろいろ文句言ってきそうだし・・・おれのやることは鬼畜なんだろ?」

イラついた声でそういうと朱里に同意を求める顔をする。


「・・・まあ、そうね」


「彼女がおまえの友達だからと言って、今更、誠実になる気もないし、考え方を改めようなんて思わないよ、おれは複数の女と同時進行なんてのも全然平気だし、結婚なんて全然考えられない、それは相手も同意の上で今まで付き合ってきたつもりだ・・・でもそういうのはおまえにとってはそれは鬼畜ってことなんだろな。

それなのに、そんな男に自分の友達を紹介するっていうのはどういうことだよ、おまえみたいな真面目なタイプはおれみたいないい加減な男を友達に紹介なんかしたりしないよな」


ぽんぽんと勢いよく言われた朱里に対する返事

朱里は二重の意味があるのでは、と思った。

二つとも、今更言われなくてもわかっていたことだ、相手が誰でも1人の女とは誠実につきあおうなんて、これっぽっちも思っていないことだ・・・ただそれが里美のような綺麗でスタイルがばっちりな女の子であっても、ということ。そして、もうひとつ確認したのは、私のような十人並みの容姿の女は対象じゃなくて、私の恋愛感はめんどうでしかたないということ・・・

そういう含みを彼は持たせて私に言ってきているのではないか、朱里は推測する

変に私に期待させないように釘をさしているのだろうか

軽く拒絶しているんじゃないだろうか



・・・なんでだろう・・・頭では言われたことを冷静に判断できるのに・・・

どうして私は傷ついているんだろう・・・


店内に流れていた曲が変わる

さっきまですこしうるさいくらいだったのが、ゆっくりとしずかなテンポの曲になった。

先ほどまでは声を荒げながら話していた他の客達も落ち着いた表情で話し始めた。


自分の中から湧き出てくる感情のせいで、声がつまりそうで何も答えられない、それでシュークリームを食べ続ける。

なんとか食べ終わったものの、薫に対する返事が思い浮かばないまま、そのままずっと下を向いてしまう。



前に、食堂で話したときもそうだったけど・・・薫はつぶやくようにいう。


「なんでだろう、いつもおまえに会って話をする度に・・・こういうことに対する罪悪感を植え付けられてる気がするんだ」


そういうと、薫は手を伸ばして、人差し指で朱里の口の端をすっとなでた。

薫の指を見るとシュークリームのクリームがついている。


「おまえはめんどうな女だよ」

そういうと、そのクリームを薫はぺろっとなめた。


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