表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/24

切り替え

月曜から始まった仕事はすごく忙しかった。

薫の前の仕事が収束し、本格的に新しい仕事が始まったからだ。

今まで並行して準備が進められてきたが、新しいプロジェクトが上から承認されると、今まで紙面上でしかなかったものを具体化していくことになる。今まで企画書でしかなかったものを具体化し、関係各社に連絡していく。その作業に薫は追われていく。



朱里の上司である上川のところもその中のひとつで・・・上川のいる会社にしてもこの規模の大きい仕事は期待されているで・・・


「きっついわ、石橋さんは・・・頭の回転が速いしレスも早くて的確なのはいいけど、自分の能力と同じだけ相手にも要求してくる・・・おれそんなに賢くないっての」


水曜の午前中、正面に座る上川がパソコンをみながら、うんざりした調子で言った。

また薫から送られてきたメールに悩まされているらしい、それ以外にも毎日のように薫のいるオフィスに呼び出されてる。

朱里は上川をみる、朱里よりもいくつか年上で・・・おそらく芦田保や薫と年の変わらないはずだ。

朱里が会社に入って研修が終わってから、この上川とずっと組んで仕事をしてきたけど、取引先に対してここまで、てんてこまいしている態度は今までなかった。前の仕事、ほとんど収束を迎えている芦田との仕事でもそんなことはなかったし、芦田の出張中にその仕事を引き継いでる石橋の態度は、今と比べてのんびりとしていたと思う。

これまでの石橋薫の態度と違うのは、他人の仕事だったからだろうか?それとも、今回のは本気でかからないとやっていけないほどの内容だからだろうか・・・と朱里はおもう。

確かに上川から流れてくる数字は今までの上川自身の持ってくる内容より、桁が2つくらい違うもので・・・

それなのに、今までにないくらい、ものすごく細かい詳細と指示と依頼がこれでもかというほど流れて来る。

それが営業だけでたちうちできない技術的なことまでどんどん踏み込んで書かれているので理数系ではない営業一本の上川には理解するのが精一杯のようだ。

呼び出しは勉強会も兼ねているらしい。大量のメモを持って上川は会社に戻ってくると、それを書類化して朱里のメールに送ってくる。

朱里もそこに書かれている内容ををグラフ化したり、読み込んだりしているのだが、あまりに緻密な内容に全体の流れが読めずわかりにくかった。



「石橋さんは、もともと大学では理数系の人で入社時は技術系の部署だったらしんだけど、営業部の上が彼のコミュニケーション能力を見て、自分の部署にひっぱりこんだらしいよ、技術も営業も両方こなせるからかなり有望らしいんだけど・・・」


上川と背中合わせの席で座っている里美が、椅子をキィっと動かして振り向くと朱里のほうを見る。


里美には週明けすぐに薫のことを話した。

薫に里美のことを薦めてみたけれど、あんまりいい返事は聞けなかった、というと、「なんとなくわかってました」と言った後、ため息をついた。


「遊びで相手にされるの、嫌だったからつい先輩に頼んでしまいました、石橋さん・・・朱里さんには本音で話してそうだったし・・・嫌な役回りをさせてすみませんでした」

と頭を下げられまでして、朱里は焦った。


「いや、ごめんね、役に立てなくて・・・それに、本音とかじゃなくて、私はあの人には問題視されてないからそういう態度なだけだって」


薫にとって、遊び相手とはいえ、『女』と認識されている里美は、落ち込んだ姿を見せていても華があって美しく、つい同姓の朱里でも、つい抱きしめてしまいたくなるくらいだ。

それに比べて自分は・・・と考えると暗くなってしまう。


無口になって下を向いてしまった朱里に気づいて、里美が慌てて、


「朱里さんまで落ち込まないでさい、私大丈夫ですから」

というと、その言葉にまた朱里の気持ちが落ちてしまう・・・


・・・ごめん、私って里美ちゃんの思うほど心が穢れてないわけじゃないわ・・・



そんなのんびりした空気が月曜日の午前中は漂っていたのに、

月曜の午後に薫から『上からのGOサインが出ましたので』という一報があってからはガラッと雰囲気が変わり、毎日忙しい日々が続いていた。


「明日、石橋さんとうちの工場行くから・・・信じられないよなあいつ前に工場着たときに、今度の製品の生産がうまく回るかすでに部品のチェックしてて、しかも、工場の進捗状況とこれからの機械の空き状況も把握してたんだと、明日はその詰めとかなんとかで一日工場にこもるらしいよ・・・その後また打ち合わせするんだろうなぁ」


上川から聞いて朱里はぎょっとする。

この間の私がお目付け役で行った工場訪問で私がこういうことに無知なのを知って、そんなことまでやっていたのか。

石橋薫にとっては私は都合のいい相手だったに違いない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ