ケーキ
きらびやかで派手でスピードがあって浮ついてて喧騒をまとった薫
そんなところは自分のいられる世界じゃない、それはわかってる・・・
そう思っていた朱里に同じことを考えていたのか万理も少し気まずそうな顔をして言った。
「・・・朱里は・・・朱里はそういうタイプの人はダメになったって思ってたし・・・なんていうか、その見た目が良くても、女にいい加減なタイプは苦手でしょう?」
そういうタイプ・・・気持ちのない女としたいという理由だけでそういうことができる人・・・それとも誰が見ても素敵で、話しているだけで相手の心を奪ってしまう人ということだろうか・・・
「うん、その人のこと、まだ本気で好きだって、確定した訳じゃないよ、惹かれてるのは確かなんだけど・・・」
外見だけに引きづられるようなことは卒業したと思っていたのに。
石橋薫の端整な顔を見ているだけで、彼の意に反して私はどんどん惹かれていったのだろうか。
私はバカだ。
次にあいつに会った時、どういう顔をしたらいいんだ。
下を向いてしまった朱里の頭の向こうから万理の声が響く。
「その人は朱里に対して親近感はきっとあるんじゃないかとは思うんだよね、むこうからも声をかけてきてるみたいだし、まあ軽いものはおごってくれたりしてるんだし・・・でも、朱里のことはそういう目ではみていないと私は思う」
「うん、どっちかっていうと最初から避けられてる感じみたいだったし・・・」
「朱里の話を聞いてると、最初はそうであれ・・・今は彼は朱里を避けてるようには感じないけど・・・でもね、そういう恋愛に長けた人が好きな人相手に嫌われるようなことをはいわないと思う、そういうのまるで小学生の男の子みたいじゃない?」
「そうね」
それはないな・・・確かに・・・
「でも・・・私はね・・・たとえ、その人が朱里のことを気になっていたとしてもね・・・朱里はその人のこと好きになったら、辛い思いをすると思う・・・そういうの、私は嫌だな」
「・・・」
「いつも他の誰かが彼のことを好きな状態が続いてくんだよ、それに彼はうつろいやすい人なんでしょう?朱里は彼の愛情がいつか冷めるんじゃないかってびくびくしたりしそうだ」
だから、できるなら、どうかここでやめて欲しい
しょっちゅう会うから情が少しだけわいただけだと思って欲しい。
傷つく朱里を見るのはもう嫌だ、そう思っている万理の気持ちがひしひしと朱里には伝わってくる。
朱里は顔をあげて万理を見る。
「好きだとか、付き合うとかそこまで考えてるわけじゃないよ、なんていうか・・・悔しいけど、見とれてるだけ」
だから、心配しないで・・・
「うん」
朱里の気持ちを万理も受け取ったのだろうか、万理は気持ちを切り替えたように明るい声を出す。
「でも、まあ会ってみたいかな、その格好のいい男に」
目の保養になりそうだしね。
「見せたいよ、ほんと悔しいけど、いい男なんだから」
「芦田さんっていうのはどうなのよ」
「・・・彼は・・・」
朱里の息が詰まる。
「でも彼も万理に見てもらいたい、私の代わりに判断してよ」
「見たいわ~、合コンとかしてよ」
「合コン・・・あの2人と・・・ありえないなぁ、それに万理は彼氏持ちでしょう?」
万理には高校時代から年上の彼氏がいる。
それで万理は朱里と違って、就職先を地元に決めたのだ。
サービス業で働いている彼は土日は仕事のことも多くて、遠距離でなくてもデートもままならないのに、遠距離なんてありえない、と彼女は思っていた。
今は同棲に近い状態が続いていて、時々朱里のうちに遊びにくるのを楽しみにしていた。
万理は手が止まっていた朱里のかわりに紅茶をポットからティーカップに移すと、大きめのトレイにお茶のセッティングをして、ケーキを乗せたお皿と共にダイニングテーブルに運んだ。
「さぁ、ケーキを楽しまなくちゃ」