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はじまり、はじまり?

この人たちと飲みに行くのは何回目だろう・・・

ライトアップされた桜の木の下にビニールシートを広げてビールを飲みながら買ってきた惣菜をつまんでいる人たちを朱里はぼんやりと見ていた。

彼女は桜の花びらが舞い降りる枝から少し離れた木の根元の辺りに木にもたれながら座っていた。

お酒はあまり好きじゃないし、たくさんは飲めない。

だから手にした缶の中にはビールは4分の1ほどしか減っていない。


メンバーは朱里の勤めている会社の同僚が何人かと

取引先の相手が数人

営業事務だから、取引先の営業とはよく顔合わせをしているし、同じ事務の人ともよく電話で対応するし、たまにお使いにお互いの会社を尋ねあったりするから決して知らない人たちではないが、

営業職特有のお酒の席での、明るすぎるくらい明るくて、ノリが良すぎる感覚にどうも朱里は慣れそうになかった。

それでこういう飲みの席では時間がたつと後ろに下がってしまうのはいつものことであった。


「五十嵐、この間の工場からのクレームなんだっけ?」

輪の中心にいた営業の上川が振り返って朱里を呼んだ。


「はい、前回のものより、カットがしずらくていくらか破損が出るようです、素材の質が変わったのか成分を確認して欲しいって言われてます」


移動するのがめんどうなので、遠くから大きな声で返答する。こういう時はお酒の席は都合がいい。お酒を飲んでる席だと失礼な感じでもわりと許される。



「それ、芦田さんに説明して」

名前を呼ばれた芦田保はゆっくりと立ち上がると輪の中心から朱里に方にやってきた。

背が高くてすらっとしている保は一見颯爽といしているように見えるが、

顔はビールのせいかほんのりと赤い


彼と話すのは今回が初めてだと朱里は思う

いつも朱里は輪を抜け出すし、保はいつも輪の中にいるから話すきっかけもなかった

保は取引先の商品推進部の人間で営業に同行して商品を説明する仕事をしていた

仕事の上で接したことはほとんどないのだが、みんなと飲んでいる彼を見ていると、

彼だけは営業色がそれほど押しが強い感じではなく、どちらかというと控えめで静かな性格のようだと朱里は思っていた。

ところが、実際会話をするとそれだけでなく、どんな話でも受け入れてくれそうな度量の広さが保からは感じられる。

そんな保の態度で、朱里は敬語ではあるものの、ついくだけた口調で話してしまう。


「明日から、中国なんですよ」


「怖いですね、もう大丈夫なんですか?」


「はあ、まあ、でも呼ばれているので仕方ありませんね、呼べるってことは大丈夫だって思うしかないっていうか・・・」


「・・・案外、何も考えて無いんですね」


保はゆっくりと微笑んだ。


「辛らつだな、仕事だから仕方ないでしょう?」


「どのくらい、行かれるんですか?」


「2週間です」


「じゃあ、2週間経って、芦田さんが会社に出社されてなかったら、そういうことになったって思っておきますね」


「・・・ひどいな、帰ったら『生還しました』って連絡しますよ」


「その時は会社の上川の番号に連絡してくださいね、電話番号同じですから」


「・・・そうですね、ビールまだありますか?取りに行きますが」


「いえ、まだたくさん残ってます」

手にしていた缶ビールを振るとぽちゃんという重い音がする


「じゃあ、失礼」


そう言って、保は立ち上がると、ビールのストックがある所に向かう。

朱里はなんとなく深呼吸すると歩いていく保をみやった。

彼はビールの入った袋を中を確認して、何を考えたのか、またどこか遠くへ行ってしまった。


少し絡んでしまって嫌がられたかな、と朱里は後悔する

ダメだ、言っている言葉もキツくなってしまったみたいだ

芦田さんはきっととっつきにくいと思っただろうな


朱里はためいきをついた





「よお」


自動販売機で飲み物を買っていた保に声をかけたのは同じ会社の同期で同じ大学の出身でもある

石橋薫だった。

薫は保ほど背は高くないが、やはりすらっとしている。顔立ちはハーフのようにはっきりとしていて、彼の周りだけ空気が違う、そう思わせる男だった。


「花見か?」


「ああ」


言葉少なに保は答えた。

今度薫も関わることになるプロジェクトに関係する企業だった

その取引先の上川は先日名刺交換をしたばかりだ

挨拶しておくのも悪くない


・・・ただ・・・どうだろう、薫は保の心の揺れにすこし戸惑っている

目はこちらを見ているが、あまり薫と歓迎している様子ではない

保の手元を見ると缶の中身はオレンジジュースだ

女の為に買いに来たということだろう、そして今までの経験で言うと、普段男が薫にこういう態度を見せる時は、飲み物を渡す女を薫に会わせて、取られたくないというサインだ。


こいつにそんな思いを抱かせる女はどんな奴だろう

他のつまらない男ならともかく、芦田のような男が惹かれる女には興味がある


こういう態度は意地悪だろうか、でも姿を遠くから拝むくらいはいいだろう



「少しおれも挨拶していくよ」


薫はにこやかな顔でいうと保について歩き出した。

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