暖房
光太郎と玄関先で偶然合流したまきるは、冷たい手を擦り合わせながらリビングのドアを開けた。
「さ、さささ寒いよっ。ただいまっ。リビングさむっ」
「ただいま。って、翔子さんはいないみたいだね。出掛けてるのかな?」
「どどど通りで寒いと思ったよっ」
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫じゃないかもっ。だっ暖房をっ」
「まきるは制服だからスカートだしね。見てるこっちも寒くなってくるよ」
「ス、スイッチオンッ! 布が無ければ暖房を入れれば良いじゃない! byマキル・アントワネット」
「お、良く知ってるね」
「このくらいはねっ」
「まあ、とりあえず着替えたら?」
「うんっ」
ガチャリ バタバタ
「あんなに急いで上がって…………。よっぽど寒かったのかな」
バタバタ ガチャリ
「ただいまっ」
「早いね」
「あたしの部屋も寒くて、パーッと脱いでパーッと着てきたっ。ううっ、服が冷たいよ」
「すぐに暖かくなるから我慢しなさい。お、温風が出てきた」
「う~~~っ。…………暖房の最初の匂い、あたし好きかも」
「そう? 私はあんまり好きじゃないかも」
「えー、良い匂いだよー。特に今は幸せを運んでくれるしっ」
「ん、確かに暖まってきたね」
「はー、本当に寒かった。冬だ冬だ言ってたけど、いよいよ本気出してきた、って感じだね」
「そろそろ雪も降るらしいしね」
「いいよねー。雪合戦したいなー。寒いけど」
「そういえばさ」
「んー?」
「高校じゃスカートの下に何か履いたらダメなのかい?」
「ううん、黒いタイツなら大丈夫だよ。鞄の中に入ってるやつ」
「じゃ、どうして履かないんだい?」
「…………履いたら負けかな、って思ったの」
「負け? 見た目が嫌いとか?」
「ううん」
「じゃあ何に?」
「寒さに、かな」
「へー」
「学校に着いた時、あたしの脚はもう限界だった。タイツを履いて来なかった事を後悔して、鞄の中のタイツをトイレにでも行って履いてこよう思った。でも、あたしはふと考えたの。ここでタイツを履いたら周りから『あの子途中からタイツ履いてる。きっと寒さに負けたんだね』っていう憐れみの視線で見られるって」
「そうなんだ」
「だからあたしはお弁当にかけて誓ったのっ! 今日はタイツを履かないって! 向島家の名に恥じない、立派な生足ガールになるって!」
「そりゃ凄いね。あ、テレビつけて良いかな?」
「もー、実の娘にその反応は酷いよー。もうちょっと乗っかってよー」




