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馬車酔いする私、白馬に乗った将軍ごっこをした結果

作者: 井上さん
掲載日:2026/09/27

名前を借りました


フィクションです

「うぅ…」


 私クーロンは、今日も今日とて馬車酔いしていた。


休憩を取り、吐き気に耐えていた。



 いくら頑強と言われる辺境伯家の令嬢でも、耐えられないものは耐えられない。




 すると。




 壮大なメロディーと共に、砂浜を、将軍が白馬に乗り疾走するシーンが思い浮かんだ。


サンバではない。


「上様!?」


 馬を乗りこなせたら、私、上様になれる?(なれません)



 そうか…乗り物酔いをする人は、運転する時は酔わない。



 私は転生者だ、と感動する前に



馬に乗れば酔わなくない?



 と、閃いてしまった。



邸に戻り、しばらく休んだ。体調が良くなってから、馬に乗る練習を始めた。


 イケメンで妹大好きなラジアン兄様を丸め込んだ。私と同じ紺色の髪に紺色の目をしている。長い髪をひとつ結びにし、いかにも貴族!って感じの兄様。


「馬に乗れるようになったら、ラジアン兄様とお出掛けしたいです!」


 兄様は優しいから、私のおねだりに弱い。兄様は喜んで、私に乗馬を教えてくれた。




 初めは、馬の大きさにびっくりしたり、兄様と一緒に馬に乗った時の高さにびっくりしていた。


馬は賢い、とか、アニマルセラピーで馬と触れ合う、とか、色々思い出したが、グダグダ考えても仕方ない。


 馬車酔いよりはマシ…と、毎日馬と触れ合って、慣れる事にした。



 私に与えられた馬は、白い雌馬だ。


名前はハチロクにした。

理由はまぁ…速そうだから。


 ブラシで毛並みを整えてあげると、



『お、人間…中々上手いじゃないか…』



 みたいな顔をして、大人しくしていた。




馬に慣れたら、乗る練習だ。


…まず、馬の背中が高いから、台が無いと乗れなかった…



 ラジアン兄様の前に乗せてもらい、馬の動きに慣れようとした。


…筋肉痛になった。


以外と、身体を使うんだな…






 ラジアン兄様に顔をスリスリする兄様の馬を見て、仲良くなると、スリスリしてくれるのね…とワクワクした。




 白馬に乗って砂浜を疾走する上様を思い出す。



でもまずは、ゆっくりと歩かせる。




 兄様に手綱を握っていてもらい、1人で乗れるようになった。

 でもまだ、ゆっくりだ。歩いたり、止まったり、右に行ったり、左に行ったり…



手綱を握ってもらわなくても、1人で乗れるようになった。



 しばらくしたら、少し走れるようになった。



もう少し早く走れるようになれば、上様のオープニングも飾れるかもしれない。


まぁ、ここは草原だが。



 と、妄想していたら、前方に人がいるのが見えた。



…戦っている?


1人の男を、黒尽くめの5人が襲っている!?



 そのまま走り続ける。



馬が走ってくるので、黒尽くめの者達が怯んで後退った。




 私は、何気なく男に手を伸ばした。


男は、一瞬、目を見開き…私の手を取り跳び上がった。



…すごい…



男は、私の後ろに乗っかった。



馬は、何事もなく走り続けている。




黒尽くめの者達が、走って追いかけてくるが、馬の方が早い。


「私…まだ不慣れなので…逃げたいなら手綱を握ってください」


後ろに乗った男が手綱を握ってくれたので、馬が本気モードで走り出した。




 黒尽くめ達を振り切り、私の邸に辿り着く。


ハチロクに「ありがとう」と言い、撫でてから、厩舎の世話係に預け、邸に入る。


「助かった…ありがとう…」


 応接室のソファを勧めると、座る前に男が言った。


「…はぁ…はぁ…大丈夫ですか?」


 初めての速さだったので、ちょっと怖かった。

…どうにか…意識は保てた…


「ごめんね…不慣れって言ってたよね?怖かったよね?」


 男が心配そうに、覗き込んできた。


割とイケメンだな…

藍色の髪に、藍色の目。整った顔。引き締まった身体。

観察する余裕が出てきた。


「…はぁ…逃げ切れて…良かったです」


「うん…君は命の恩人だ…」


 男は私の手を取って、口付けた。


「!?!?!?」


 驚いていると、扉が開いた。


「クーロンが男を連れ込んだって!?」


 兄様…嫁入り前の娘になんてことを…


あ、確かに連れ込んでた。目の前に証拠がある。


「あっ!クーロンの手が…!…?……は!?貴方は…!!」


 ラジアン兄様は、私の手に口付けていた男の顔を見ると、驚いて跪いた。


「あ…まぁ、…ちょっと座ろうか」


 男が困ったように言った。


そして、私の手を取り、並んでソファに座った。


「!?!?!?」


 私は、驚いて男の顔を見た。


兄様も驚いていたが、黙って対面のソファに座った。


 メイドがお茶を淹れてくれた。


兄様が人払いをした。


 何か…ヤバい事になってる?


誰なの?この男の人。


もしかして、ヤバい人?


「私は、不審者に襲撃されていた所を、この娘に命を救われた」


 男が兄様に言った。

貴方も十分に不審者です。


「なので、この娘と結婚したい」


 ん?何ですと!?


兄様も目を丸くしている。


「君の名前は?」


「…クーロンです」


 いきなりこちらを見たから驚いた。とりあえず名乗った。


「クーロン…私を救ってくれてありがとう。私と結婚して?」


 私は意味が分からなくて瞬きをした。


「ふふっ…可愛いね」


 イケメンが笑った。

破壊力がすごい…


私がポカンとしていると


「殿下…恐れながら…妹は、貴方が誰か分かっていません」


 兄様が言った。


「え?そうなの?」


 男が言った。


やっぱりヤバい人だったの?

突然、求婚してくるし。マジヤバな人だったのか。


「私はね、この国の第3王子ヘンリーだよ」


「?????」


 だいさんおうじ…?

首を傾げた。


「ふふっ…王子が分からないのかな?可愛いね…」


 王子…八王子?


反対側に首を傾げた。


「王子が何でこんな所に…?」


 私が呟くと


「あれ?そっち?確かに、王子は、その辺ウロウロしてないよね」


 自称王子が笑った。王子って、金髪碧眼のイメージなんだけど。

自称王子は、藍色の髪に藍色の目の、某アイドルグループとかにいそうなイケメンだ。


「追っ手に襲われて、側近や護衛と離れてしまってね」


「追っ手?」


「さっきの黒尽くめのやつらさ」


「何が狙いなんですか?」


 つい聞いてしまった。


「それは、私が君に一目惚れしたからだよ。あれ?黒尽くめのやつらの狙い?」


 自称王子がしれっと言った。


「…聞くのやめます」


「本気だよ。やつらに囲まれて、もうダメかと思ってたのに、颯爽と君が現れた。惚れるしかないだろう?」


 そうかな?


「馬に乗ったまま近付いただけですが」


「私に手を差し伸べてくれただろう?女神かと思ったね」


 もう、何を言ってもムダかもしれない。



命を狙われたのか?

帰りにまた狙われたらどうするのか?



「そういえば、一緒にいたという側近や護衛の人達は…?」


 兄様が聞くと


「そのうちここに辿り着くだろう」


 自称王子は平然と言った。


え?ここに来るの?


「でも…離れがたいな…」


 ん?


「もういっそ、城に来ないか?」


 手を握られたままなので、逃げられない。


「妹を連れて行くのはやめてください」


 兄様が即答した。


「え?王子を救ったのだから、褒美をあげないと」


「褒美…ですか?」


 私は首を傾げた。


「私との結婚だよ」


 良い笑顔で自称王子は言った。


「それは褒美ではありません!!」


 兄様…ツッコミが厳しい。だがその通りである。


「え?ダメ?私は嬉しいよ」


 そうですか。


「妹はまだ、社交デビュー前なんですよ」


 兄様が言った。


「うん。こんなに可愛くて勇敢な令嬢がいたなんて知らなかったよ」


「まずは、国王と両親に話をしてください」


「でも、こんなに可愛いんだよ。誰かに取られたら嫌だ」


「私も可愛い妹を取られるのは嫌です!!!」


 謎に張り合う兄様。話が噛み合ってない気がする。

自称王子は全く気にしていないが。


「私なら、君を絶対に幸せにするよ。一途だから浮気もしないし」


 自称王子が私を見つめて言った。


「愛が重そうですね」


 答えたのは兄様だ。


「私を救ってくれた女神だよ。大切にするに決まっているじゃないか」


「命を狙われていますよね?」


「大丈夫。すぐに解決するから心配しないで」


 話しているのは兄様なのに、自称王子はずっと私の目を見つめている。


「あぁ…女神の瞳に私が映っている…幸せ…」


 うん。色んな意味でヤバい人だった。






帰ってきた両親と共に現れたのは、自称王子の側近と護衛達だった。


「殿下、ご無事で…」


「クーロンに助けられたのだ」


 私を見つめながら王子が言うと、側近や護衛達は


「ありがとうございます」


 と私に向かって跪いた。


あわわ…


その隙に両親に話をする自称…じゃなかった、本当に王子だった。




 それから、我が家の騎士達を護衛につけ、我が家の馬車で王子を城まで送る。


 側近と護衛達は、襲撃に備え別行動した。

王子の振りをしているのは兄様だ。


跡をつけられてはいたが、襲撃される事は無かったらしい。


つけられていたんだ?






※※※


 調べたら、第3王子だけど優秀だから、王太子位を取られないように、と、王太子ヘルツが襲わせたようだ。



 私ヘンリーは、公爵位をもらって臣下に下る予定だった。


既に国王に願い出ていたのに、なかなか返事をもらえなかった。


早く王籍を離れていれば、命を狙われる事はなかったのに。



 いやでも、狙われたからこそ、クーロンと出会えたとも言える。



 早く王籍を離れたい、命を狙われたから早く決めろ!ついでに命を救った令嬢と結婚させろ!と国王である父に詰め寄った。


国王は、やっと決心したのか、許可された。



早くクーロンに会いたいな…

私に手を差し伸べてくれた愛しい女神…






※※※


 国王から結婚の打診が来た。


ヘンリー王子が挨拶に来た。


「本当に王子だった」


 私は言った。


「見えなかった?」


 ニコニコしているヘンリー王子。


「見えなかった」


「そっかぁ」


 ヘンリー王子は笑った。


「私は、王籍を離れ、公爵になる予定だ。領地は…ここの近くに王領があったな。そこにしよう。それなら、いつでもここに遊びに来れるよ」


「はぁ」


 私は、気のない返事をしてしまった。


「頼むよ!君の事が頭から離れないんだ」


 ヘンリー王子は私の手を握った。今日も何故か隣に座らされた。


「えぇ〜?」


「君が良いと言うまで毎日通うよ」


 王都からここまで馬車で5日である。馬を走らせても休憩をいれて3日で着くか着かないか。


毎日は無理だが、本当にやりそうな人である。


「まぁ、助けてしまったからには、最後まで責任を持たないといけませんよね」


 私は観念して言った。


「え?」


 王子は、きょとんとした。それでもイケメンは崩れないんだな。新たな発見をした。




 そうして、私とヘンリー王子は婚約した。






我が領地の近くの王領と公爵位をもらい、王籍を離れた元王子は、その報告に、領地に行く前に我が邸にやってきた。


「私の可愛い婚約者クーロン」


 私の前に跪いて言った。


行動がキザである。王子って皆こんな感じなの?

顔が良いから何でも許されるのか。


「引き継ぎなどがあるから忙しくなる。しばらく会えないと思うと淋しくて」


 王子…じゃなかった公爵は、私の手を取り口付けた。


前世喪女には、とんでもない刺激物だ。


「落ち着いたら、遊びに来てほしい。それを楽しみにがんばるよ」


「はい」


「あ、名前で呼んで良いよね?クーロン」


 既に呼んでいます。


「私の事は、ヘンリーと呼んでね」


 笑顔の圧が強い。


「はい」


 と言うしかなかった。


ヘンリー様は、すぐに領地に向かったのだった。




それから数日後、ヘンリー様から手紙が届いた。


無事に領地に着き、公爵としての仕事を始めたらしい。



 私はすぐに返事を書いた。



どんな土地か。どんな名物があるか。

もう命を狙われてないか。




 返事には、心配してくれて嬉しい。

王籍から抜けたから、今のところは何も無い。

どんな土地でどんな名物があるかは、調べておく。


と書いてあった。



 忙しいだろうに律儀な人だ。


チャラ男に見えたが、案外良い人なのかもしれない。



それに、手紙の他に花束や、お菓子、アクセサリーなどが送られてきた。



マメである。



 最初だけだと思っていたが、3ヶ月経つ今も、送られてくる。



「あぁ…私の女神…会いたかった…」


 ヘンリー様は、跪いて私の手を取り、口付けた。


「赤くなって…可愛いね」


 すみませんね。慣れてないので。


今日はこちらで泊まり、明日は私が公爵領に見学に行くことになっている。

わざわざ向かえに来てくれたのだ。


仕事に余裕ができたらしい。




 ヘンリー様が、両親と兄様に挨拶を終え、私と庭でお茶をする。


明日は馬での移動だ。馬車酔いするので。


「ずっといてくれても良いのに」


 まだ婚約中である。結婚式は、あと3ヶ月後だ。


「乗馬、上手くなっちゃった?私と一緒に乗っても良いんだよ」


 隙あらば、イチャイチャしようとするヘンリー様。


どうしてこうなった。


「明日は1日移動だけど、次の日は領内を案内するね。デートだよ」


 嬉しそうである。


「浮かれてごめんね」


 幸せそうなヘンリー様の口元に、一口大のお菓子を持っていった。


 きょとんとするヘンリー様。どんな表情をしても、イケメンはイケメンだ。


意味が分かったヘンリー様は、パクリとお菓子を食べた。


 私もお菓子を食べようとしたら、持ったお菓子をヘンリー様に取られ、私の口元に持ってきた。


「あ〜ん」したら「あ〜ん」を返された。


恥ずかしいが、3ヶ月後には夫婦になるのだ。


お菓子をモグモグしながら身悶えた。


「何をしても可愛いね」


 ラジアン兄様に止められるまで、イチャイチャは続くのだった。




 上様のように馬に乗って走りたかっただけなのに…


白馬に乗った将軍ごっこをしたら、何故か溺愛されました。


読んでいただきありがとうございます

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