第九花「橙と蕾」
「はぁ…」
廊下を歩きながら、ため息をつく。
結構いろんなことを任された。とりあえず整理しようか。
一つ目、紫苑の部隊の人数を増やすこと。
四年間、試験を実施していない。それに元々の人数も少ない。
これは「蕾」に任せようかな。
蕾とは、次の色候補のことで、主に色に付いて、さまざまなことを学ぶ人を指す。
複数人いるところもあれば、一人だけのところもある。
二つ目、結界の貼り直し。
…これは別に今度でいいや。
三つ目、特殊稽古。
蕾は、自分のところ以外の色からも指導を受けることになっている。
実際、緑と橙以外は全員稽古したのを覚えてる。
これも会った時でいいや。……はい次。
四つ目、外国のお偉いさんの護衛。
…これが一番面倒くさい。
日本の七華は、世界の組織の中でもトップレベルだ。
日本が一番魔の発生が多いというのもあるだろう。
とにかく、そういうわけで何かと護衛の依頼を受けることが多い。
日本のお得意様の輸出入国、国交を結んでいる国、などなど。
つまり、断れないのだ。
日本に来るならまだしも、他の国に行くのに、なぜ日本が出向かないといけないんだ。
四年前までも常々思っていた。
しかも、一番でかいのが残っているらしい。
一ヶ月後にあるアメリカ、中国、ドイツ、フランスの四カ国首脳会議。
スイスで行われるその会議は、今世界中から注目を集めている。
日本はまだ世界的に影響力を持っているわけではないので、呼ばれていない。
しかし、ここで七華が活躍すれば日本の地位が高まるので、政府からは結構圧力をかけられているらしい。
おそらく色二人は行くことになるだろう。
誰になるかはわからないが、一人だとさすがに嫌なので誰かは道連れにしよう。
五つ目、テレビ出演。
国民の不安を取り除くためにも、色はテレビに出ることが多い。時にはバラエティ番組にも。
私は出たことがないから、テレビ局から出ないかと電話がかかってくることがしょっちゅうらしい。
その際、仮面を外してほしいということが多いというので却下だ、却下。
…顔なんて晒しても、面倒くさいだけだ。
…こんなもんかな。
頭の中が整理できたところで、ふと横を見ると、橙が蕾に稽古をつけていた。
二人を同時に相手している橙は涼しそうな顔をしていたが、蕾たちは必死そうだった。
よし、私もこの際やってしまおう。そう思い、歩みの方向を変えた。
「一旦休憩にしましょ!五分後に再開するわ!」
橙が蕾達に声をかける。
「はい、了解しました…」
かなり疲れているように見える。
タイミングが悪かったと思いながらも近づく。
「私も稽古つけよっか?」
「ギャーーーー!」
「うわあああ!?」
気配を消して後ろに立つと、事件性のある叫び声を上げられた。
もう一人はその声に驚いていたようだが。
「あなたは…もしかして、紫様ですか!?」
男の方が聞いてくる。
「そうだよ」
…おそらく、メガネを取ればイケメンなのだろう。そんな雰囲気の顔立ちだった。
「紫!今は私が稽古しているのよ!」
案の定、橙もこちらへ来た。
「わかってるよ。でも、二人いるんだし、一人ずつ稽古した方が、効率良くない?」
そう言うと、橙は考え込んだ。そして、
「いい考えね!そうしましょう!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そう言ったのはもう一人、私に事件性のある叫び声を上げた女。
ギャル。ただその一言で説明が出来た。
「二人がかりでもこの有様ですし、一人ずつとか絶対無理です!」
あら、素直。曇りなき眼でそう訴えてくる。口調はギャルじゃないのね。
「…そうね。殺しかねないわ…」
何やら物騒な声が聞こえてきた。
その時、妙案を思いついた。
「そうだ、私と橙が模擬戦するからそれを見るのはどう?」
「え!?」
橙…もう少し音量を落としてほしいな…。鼓膜が破れる。
「見て学ぶことだって、多いよ」
そう声をかけると、二人は顔を見合わせて、同時に頷いた。
「「是非お願いします!」」
二人は休憩を取れるし、私は稽古(?)を一石二鳥にできる。
我ながら名案…と思っていると、橙が小さな声でぶつぶつ言っているのが聞こえた。
「私が、紫と模擬戦?……あばばばば…」
緊張しているのだろうか。しかし、それではいいお手本にならない。
「橙」
声をかける。
彼女はこちらを向いた。
「私を追い抜かすんじゃないの?」
少し挑発的に言った。
すると、橙は目を見開いて、元の雰囲気に戻った。
「ええ、そうよ!!あなた達、そこで見てなさい!私が紫を倒すところを!」
二人から距離を取り、場の中央へ移動する。
「じゃあ、はじめよっか」
橙と紫の模擬戦が、幕を開けた。
説明的な感じが多くなっていますが、ご容赦を…!




