第六花「七華」
「紫様、総監がお呼びです」
黒服に黒サングラスの男がそこに立っていた。
長篠は気づかなかった。
「……そう。相変わらずはやいね」
少女ーー紫が黒服の方に歩き出す。
長篠は、ただその背中を見ていた。
「…本当に、よろしかったのですか?」
黒服が紫に問う。
「大丈夫。楽しかったよ」
紫は一瞬だけ振り返った。
仮面越しに、視線が合った気がした。
その言葉が、長篠の胸に引っかかる。
このまま見送るだけでいいのかという気持ちが、喉を叩く。
「蓮!」
気づけば呼び止めていた。
「俺、絶対七華に入って見せる!上に登り詰める!だから…」
一呼吸。
「また、話してくれよな!」
ああ、そうだ。目の前の少女は紛れもなく蓮だ。何を疑ってたんだ。
紫はきょとんとした表情をしたのだろう。仮面で見えない。だが、そんな気がした。
「…そうだね、期待してるよ」
とても優しい口調だった。
その時、黒服は先生に話しかけていた。
「ただいまをもって、佐藤蓮は退学となります。詳細は、また今度改めて」
「は、はい。分かりました…」
黒服は指を鳴らした。
そして、紫と共に消えた。
長篠は誓う。
(蓮を、一人にはさせない)
ーーー
転移した先は、日本で一番大きな七華の施設。通称、「華の庭」。
ここでは、訓練場はもちろん、七華トップが集まる会議室や総監の部屋、食事場、宿泊施設…などなど、多数の機能を果たしている。
総監の部屋は、最上階の一番奥。
道中では、訓練場で模擬戦などをしているのが目に入る。
「華の庭」ともなれば、階級が上の者しか入れない。訓練の質も高い。
(これまでわがままいわせてもらってたからなぁ。ちょっと新人教育でも引き受けようかな…)
そんなことを思っていると、隣を歩く黒服ーー総監の側近、櫛川に話しかけられた。
「友人思いのいい人でしたね」
長篠のことだろう。
「見たところ、才能はあります。本当にここまでくるかもしれませんよ」
「…そうかもね」
そんなことを話していると、総監室の前まで辿り着いた。
「私はここでお待ちしております」
櫛川はそう言って扉の横に立った。
「正一ぼっちゃまー、入りますよー」
そう言いながら扉を開ける。
「…まったく。もう解いたのか」
入るなり文句を言われる。その人物は、部屋の奥の椅子に腰をかけ、机に肘を立てていた。
「もういいよ、別に。ありがとね、わがまま聞いてくれて。」
「はあ…あと、もう儂はぼっちゃんと言われる歳ではない…」
紫は置いてあるソファーに腰をかけた。
「ねぇ、お菓子ある?」
「無視…まったく、櫛川にもって来させるからちょっと待っとれ。それにしてもいつもどおりじゃな。もう少し落ち込むものと思っておったぞ」
「んー…まぁ、結局はこうなるんだから。それほど大差ないよ」
櫛川が菓子を持ってくる。
「大体な…学校に入学させるにも親を募集したり…」
それに手をつけながら、くどくどと話す総監の話を聞き流す。
そしたら、急に聞き流せないことを言った。
「そうじゃ、そういやさっきここに他の色達も呼んだんじゃ。今日集まれる者はもう来とると思うのう」
「え?」
すると総監は悪そうな顔をして言った。
「今までの説明は、ちゃんとするんじゃぞ」
やられた、と思いながら会議室へ向かう。
ーーそう。面倒くさいのだ、全員。




