第二十九花「内通者」
「ねぇ」
隣に座る藍に話しかける。
「どうしましたか?睡眠を取るのではなかったのですか?」
スケジュール表を見ていた藍が、顔をこちらに向ける。
「この飛行機、つけられてるよ」
私が眠りかけた時、突如感じられた気配。
まるで私が眠るのを待っていたと言わんばかりのタイミング。
「魔でしょうか?」
気づいてないな、この様子は。……何かしらの異能か。
「いや、たぶん人間。もう少し近づいてきたら藍も気づくんじゃないかな」
藍の目が鋭くなる。
「テロリストですね。しかも異能持ちがいる組織だと」
自分が気づけなかったことから、相手が異能持ちだと一瞬で答えを出す。さすが藍。
「多分潜伏系だろうね。しかも藍が気づけないほどの手練れ。私も寝てたら気づかなかったよ」
「つまり…この飛行機内に内通者がいると」
「そういうこと」
この中で一番強いのは私。その私が眠るタイミングで距離を詰めてきた。
つまり誰かが情報を向こうに伝えている。
私が自意識過剰と言われれば、まあそうとも捉えられる。
しかし実際、藍などは気づいてないのだ。
「どうする?今の間は護衛はいいって言われてるけど」
藍に聞く。
「では、確認をとりましょう。私は中国の護衛と話してくるので、あなたはとりあえず内通者を捕まえておいてください」
ええ…私誰かまでは分かんないんだけど。
そう言おうとしたが、既に席を立ち、行ってしまっていた。
……おや?気配が消えた。私が起きていることを伝えたな。
内通者は一度間違えた。眠りかけの私を見て、合図を送ってしまった。
顔には出さないだろうが、内心では焦っているはずだ。
私の身体は、あらゆる機能が常人を逸している。
耳を澄ます。
機内にいる全員の心音を、拾い上げる。
人それぞれ拍数は違う。だからただ単に速いというだけでは特定できない。
聴き続ける。
「ーー見つけた」
私は既に護衛の一人の後ろに立っていた。
席から、瞬き一つの間に移動した。気づけるわけもないだろう。
その護衛は最初に私が挨拶をして、大統領のところに案内してもらった人だった。
顔が引き攣っている。当たりだな。
おそらく沈の攻撃を跳ね返して圧をかけたことで、私が一番強いという判断をしたのだろう。
どうして気づけたのかって?
この護衛だけ、心音が揺れた。微細だったが拍数が一人だけ緩やかになったのだ。
「さて、もう分かっていると思うから大人しく捕まろうか?」
言葉は通じないだろうが、同時に手首を掴む仕草を見せる。
その瞬間、護衛は窓に向かって逃げ出した。
「…大人しく捕まっておけばよかったのに」
窓に手をかけた瞬間、護衛の体が床に叩きつけられた。
「……さすがです、紫。ポンコツと言ったのは撤回してあげましょう」
藍が華を連れて、現れた。
床に叩きつけられた護衛は、完全に身動きが取れなくなっている。
容赦ないな、藍……。




