第二十五花「燃えるように咲く花」
その後も順調に買い進めることができた。
車に戻る。
「あら?遅かったわね。他でつかまった?」
「違うよ。屋上で少し休憩してて」
そう聞いてくる赤の横で小さくなっている橙を見る。
口を少し開けては閉じてを繰り返している。
自分のせいで迷惑をかけたと思っているのだろうか。
「橙、別に大丈夫だよ?遅かれ早かれバレてたよ、多分」
「あ、あぅ……」
いつもの元気はどこ行った。
「ほら、橙ちゃん元気出して!紫ちゃんも大丈夫だって言ってるし!」
赤がフォローに入る。
「それに…後でとっておきの場所に案内してくれるのでしょ?」
橙の耳が動く。
「ええ!そうよ!だから楽しみにしてて!」
単純だなぁと呑気に思っていると、突然轟音が響いた。
前方。
巨大な鬼が地面から這い上がっていた。
「あら……。ただの鬼じゃなさそうね」
「ちょっと!あんな大きいの見たことないんだけど!」
そう、異様にでかい。
渾鬼がいる結界以外での鬼の発生で、強い個体はほとんど発生しない。
大きさも、最大で三メートルほどしか確認されたことがない。
しかし、前方から這い上がってきたそれは、優に十メートルはあった。
「行くわよ、被害が出ないうちに」
赤が扉を開ける。
鬼の出現によって道路は塞がり、渋滞となっている。
さらに、鬼の方向から人が逃げてきている。
これ以上パニックに陥らないためにも、一刻も早く鬼を倒す必要がある。
鬼の方へと向かう。
幸い、地面から出てきているせいか、まだあまり動いていない。
踏み込み、一気に距離を詰めようとすると赤に手で遮られた。
「まずは、私に任せてちょうだい」
そう言って、懐から扇を取り出す。
「花炎」
その言葉と共に、扇が開かれた。
そして、鬼の頭部に椿の形をした炎が咲く。それはただ、美しかった。
ーー赤の異能「妖炎」。炎を操り、敵に炎の花を咲かせる。
私は木刀でも、炎は切れる。だが、彼女の炎は木刀では切れなかった。
故に、真剣を遣わされたのだ。
「ガアアアア!!」
鬼が狼狽える。
そして、それを見た民衆も声を上げだす。
「赤だ!赤が来てくれたぞ!」
「もう安心だ!」
「よく見ろ!隣に橙もいるぞ!」
一瞬で民衆の不安を取り除いた。なるほど、これが目的だったのか。
「みんな!よく聞きなさい!できるだけここから離れること!落ち着いて行動しなさい!」
赤が声高々に言った。
どうやらパニックは避けられたようだ。
そして問題は目の前の鬼。
八甲田山の熊の魔を思い出す。
あの魔の少年…黒と名乗った彼らの仕業の可能性が高い。
鬼が赤を掴みに、こちらへ向かってきた。
「させない!」
橙が風の斬撃を飛ばす。
鬼の片腕が切り刻まれ、力無く項垂れた。
しかし、もう一方の腕で掴みにかかる。
「陽炎」
彼女の姿が溶け、別の場所に現れる。
「もう一度、花を咲かせましょう?」
今度は頭部に加え、膝が爆ぜる。
しかし、倒れるかと思いきや、見境なく暴れ出した。
地面が陥没し、建物の一部が粉砕される。
もう近くにいた人の避難は完了していた。
念のため、もう一度確認する。
ーー近くに人間の反応はない。
止めを刺しにいく。
真正面。鬼の手を避け、カウンターで袈裟斬りを入れた。
そのまま体を一刀両断する。
私の手にかかれば、巨体だって関係ない。ただの真剣でも関係なく斬れる。
鬼の体の上半分が倒れる。
顔が私の目の前を通り過ぎる。その時、鬼と目があった。
その目は、何かから解放されたように見えた。
「グガ、ガゴ…」
何か伝えようとしたのだろうか。渾鬼以外に知性を持つ鬼はいないはず。
しかし、確かに何かを伝えようとした。
これはもう、黒が関わっていると見ていいだろう。通常ではないことが起きすぎている。
……鬼の結界に向かった青と黄は、大丈夫だろうか。
ーーある場所
「今回もダメでしたよ」
男がそう言う。
「そっかー。やっぱ難しいもんだね」
少年は残念そうにそう言った。
「でもね、僕らにはコレが手に入ったんだ。コレなら期待に応えてくれるよ!」
少年はただ楽しそうにそう言った。




