第二十四花「理解」
次は前来たショッピングモールだ。
今日買い物に来た目的を忘れてはいけない。
……やっぱりこうなるよなぁ。
私たちの周りには人集りができていた。
そりゃそうだ。テレビにも出ていて有名なのに、変装もせず、さらに二人一緒にいるのだ。
「すげー!赤と橙だ!」
「きゃー!赤様すてきぃ!」
「いい…ありがとう神様…私を今日ここに連れてきてくれて…」
「うおおー!やっぱ迫力があるなぁ!」
「橙様…尊い…服が良すぎる…」
「ぐぉ…二人の魅力に耐えられん…!俺はここまでのようだ…!」
何人か様子がおかしいやつが混ざっていた気がするが、とりあえず私はバレてないようでよかった。
赤と橙は観衆に向かって手を振ったりしている。さすが有名人、慣れてるな。
……でも私の服だってけっこう似合ってると思うけど?
顔隠しているとはいえ、私のことも少しは言ってくれてもいいんじゃないかなー。
そんなことを思った私に天罰が下ったのか、一部の注目が私に向いた。
「赤と橙の横にいるのって…誰?マネージャー……?」
「いや、でも一人っておかしくね?そもそもマネージャーとかいんの?」
「確かに…。もしかしてさ…紫、なんじゃないか?」
その言葉が放たれた瞬間、観衆が静まり、全員の注目がこちらに向いた。
…え?急に?やばいやばい。なんも考えてなかった。
その様子を感じ取ったのか、橙が爆弾を落とした。
「ここにいるのは紫よ!今日は三人で買い物に来たの!」
………あ。
さらに観衆が騒ぎ出す。
「紫!?存在してたの!?」
どういうことだ。私をなんだと思ってるんだ。
「確かに…!髪の色がそうなのになぜすぐに気づかなかったんだ…!」
なぜ私の髪の毛のこt…あ、ネットに一枚だけ写真あるんだった。
「仮面じゃないから気づかなかった!」
なるほどね。
「マスクとサングラス外してほしいなぁ…」
…外さないよ?あとそういうことは言わないでほしい。他の人も言い出すかもしれない。
……赤も期待したような目でこちらを見るな。
その意思を態度で示すと残念そうな顔をしたが、すぐに切り替えて、
「もうここは無理そうだから、ここは私たちに任せて行ってくれる?車で合流しましょ」
そうするしかなさそうだ。というか、こうならないように変装くらいしてこい。
服は買ってもらってるのでそんなことは言えず、私は一瞬で気配を消して観衆を抜けた。
カイロを買う。冬のスイスは極寒だ。前より多めに買っても損はない。
会計に行くと、前と同じ店員さんだった。
どこか覚えているような反応をされたので、お辞儀だけしておいた。
少し疲れたので、屋上に来てみた。
たくさんの小さな子どもが遊んでいる。
休憩スペースに座り、他に買うもののチェックリストを確認していると、隣に座る親子の会話が聞こえてきた。
「おかーさん!あのおはなし!あのおはなしして!」
「ゆいちゃんはほんとにそのお話が好きなのね」
「は、や、く!」
「はいはい、むかーしむかし、まだ七華もない頃のお話」
「ある一人の少女がいました。その少女のことは、誰もがほとんど知りませんでした。普段どこに住んでいるのか……何をしているのかも。でも、現れるときはいつも同じタイミングなのです。誰かが襲われているとき、風のように現れ、一瞬で魔を倒し、お礼も言わせず去ってしまうのです」
「かっこいー!わたしもそうなる!」
「残念だけど、ゆいちゃんは無理よ」
「えーーーー」
「ねーねー、そこのおねぇちゃん」
急に話しかけられた。私も聞いていたのを知っていたんだろうか。
「どうしたの?」
「おねぇちゃんはどう思う?」
「え?」
「わたしは、そのこはなにかなやんでるんじゃないかなーっておもうの!」
「だってだって!おれいもいわせないんだって!おれいはいわれたらうれしいものなのに!」
「……そうだね」
「ちょっと!ゆいちゃん!すみません〜」
「いえいえ、こちらも勝手に聞いていましたので」
そう言って、ゆいちゃんと目線の高さを合わせた。
「優しいんだね、ゆいちゃん。その子はそうだったんじゃないかって私も思ったよ」
そう言うと、嬉しそうに頷いた。自分の考えに同意してくれて嬉しいのだろう。
「わたしだったら、ぜーったいおはなしきいてあげる!」
「……ありがとうね」
その言葉は誰にも聞こえないほど小さく、私の口からはみ出していた。




