第二花「憧れ」
「はー、退屈だったぜ」
体育館から戻る途中、長篠が話しかけてきた。
案の定、怪物は三十分くらいで討伐されたようだ。
「そう?体育に間に合ってよかったじゃん」
ちなみに体育とは、スポーツをする時間ではない。
普通の生徒は主に護身術や受け身。
しかし、「異能」を持っている生徒もいる。七華に入るための才能とは、この事だ。
その生徒は、学校に常駐している七華所属の人間から、直接指導を受けることになっている。
まあ、クラスにほんの一人か二人しかいないのだが。
長篠も、その内の一人だった。将来七華に入りたい彼は、体育の授業をとても楽しみにしている。
「マジ!?よかった〜」
急に機嫌が良くなった。反応が面白いので、今度はからかってやろうか。
ーー体育
長篠は、クラスのもう一人の「異能」を使える奴と一緒に、離れたところで訓練が行われていた。
二人で、七華の人間に打ち込んでいる。
そんなのを横目で見ていると、先生の声が飛んできた。
「おい、佐藤!憧れるのは分かるが、自分にできることをしろ!この授業で学んだことが、自分の命を救うことだってあるんだぞ!」
「はーい」
心の中では、反抗しているが、表立って反抗することはない。
先生も見てたくせに。
体育が終わり、ぞろぞろと校舎へ戻っていく。
その時、またも長篠が話しかけてきた。
「いやー、やっぱつえーなぁ」
「またボコボコにされた?」
「いや、動き良くなったって褒められた!」
まるで子どものようだな、と思ったが、実際誰でもそうなるだろう。
「いやー、七華トップの人とか会ってみたいなぁ」
「……長篠は誰推し?」
「ええ〜」
悩んでいる。
七華のトップは、それぞれが色を冠し、単独で国家を揺るがすことができると言われている。
民衆は、誰が一番好きか、誰が一番強いだのを日々言いあっている。
「そうだな〜…やっぱ向日葵の黄が好きだな〜…いや!椿の赤もいいよな〜」
なるほど、一つには決め難いらしい。
「でも、紫苑の紫も気になるんだよな〜。分かるか!?あの謎に包まれた感じ。圧倒的強者感っていうんかな、
七人の中で一人だけ顔を出してないし。ぜってー美少女だし、見てみたいって全員思ってんじゃね?」
その言葉に蓮の足が一瞬止まる。
「…そっか」
その言葉で終わらせる。
そして、また歩き出す。
長篠は何も気に留めておらず、まだ誰が一番いいかをぶつぶつ言っていた。
この時はまだ知らない。
日常にヒビが入っていることを。




