第十八花「異能の断片」
周囲の樹氷が動き出す。
数が多い。そして、先ほどの熊の魔よりも強い。八くらいはあるだろうか。
そしてこちらには意識を失った四人。危険だ。
清水の方を見る。
彼はもう体の自由を取り戻して、樹氷に向かって刀を構えていた。
しかし、彼にはまだ無理だ。少しの時間を稼ぐだけでも厳しい可能性すらある。
「清水」
「なんだ!?どうにかできるのか!?」
期待と願望が混じった返答が返ってきた。
「私は異能を使う。だから先に四人を連れて山を下りて」
拒否権は与えない。とにかく時間がない。
彼は口を開いたが、何も言わずに頷いた。
自分も戦うと言いたかったのだろう。
しかし、自分にできることを全うしようとしている。
その冷静さは、今後においても役に立つだろう。
四人に駆け寄り、担ぎ上げようとする。
が、やはり四人は無理だった。
私も山を下りるべきか、悩む。
本当なら一緒に山を下りて手当をしたい。
しかしそうできない理由がある。
この樹氷の魔は、今まで確認されていない。いわゆる新種というやつだ。
おそらく人工的に作られたもの。その可能性から考えると、この結界内の全ての樹氷が魔にされているかもしれない。
そして、結界に入る時に感じた違和感。
もし、あの子どもの魔が結界をいつでも壊せる状況だとしたら。
周りの被害はとんでもないことになる。
決断を迫られる。
樹氷の魔たちは私たちから逃げ道をなくしてきている。
しかし、神は見放さなかった。
日輪の意識が戻る。
「ぐぉ…。申し訳ない、不覚を取ってしまった…」
そう言いながら立ち上がる。
彼は四人の中で一番軽症だった。それでも、意識を失ったほどだが。
「日輪さん!後は任せて山を下りましょう!」
清水が声をかける。
「……。承知した!」
今の一瞬で状況を理解してくれたのだろう。
他の意識を失っている二人を担ぎ上げる。
清水も一人を担ぎ終わった。
私は空気を一変させた。
樹氷の意識がこちらに向く。
その隙を突き、二人は樹氷の間を通り、駆け抜けていった。
「麓で合流しましょう!検討を祈ります!」
日輪が走りながらそう言った。
私は次々に襲いかかってくる魔をひたすら切った。
切って、切って、切って、切って、切って、切って。
数が一向に減らない。やはり全て変えられているのか。
そして、樹氷の魔が強くなっている。
時間経過で強くなるのか?
最初は一撃だったのに、段々と避けられるようになっている。
その時、結界に穴が空いたのが分かった。日輪達が脱出した証拠だ。
…あの子どもの魔はどこへ行ったのだろうか。
結界に穴が空いた形跡はないが、おそらくもうここにはいないだろう。
これで結界内には私と魔だけ。
何もない空間から、一振りの刀を呼び出す。
紫苑と縁の花が刀身に刻まれたそれは、誰が見ても異質だった。
「…久しぶり」
私は刀に声をかける。
「力を貸してね。ーーゆかり」
その時、五体が一斉に飛びかかってきた。
その刀を手に取る。
そして、振った。
「ーー寂」
清水達は、結界から出たところで怪我の応急処置をしていた。
その時、一人の足音が聞こえてくる。
彼女は、狐の仮面を被り、薄紫の髪を靡かせていた。
「紫様!よくご無事で!」
日輪が声をかける。
彼女は一言。
「おまたせ」
そして、顔を仰ぐ仕草を見せた。
「カイロ貼ってたから、汗かいちゃったよ」
その様子は、普段と変わらなかった。
ーーたった今紫が出てきた結界。
その中に、魔はいなかった。




