第十七花「黒」
「いやー……結構力作だったんだけどなぁ」
そう言いながら、たった今清水が殺した熊の魔の体を蹴る。
隣に清水がいる以上、下手に動けない。
「……君、こんなところで何してるの?」
私は刀を鞘に仕舞わないまま聞く。
「うーん…実験?弱いやつはどこまで強くなるのかっていうね」
……何かを隠している様子はない。
「でも、全然だめだね。お嬢さんには全然通じてないし」
そして熊の魔に興味を失った。
私は話している間、観察を怠らなかった。
その子どもは、体の動きが不自然だった。
「……おや?気づいてる?気づいてるんだね!あはは!やっぱやるなぁ!」
心底楽しそうだ。私ですら恐怖を感じる。
「僕の能力……えーっと、君たちが「異能」って呼んでるやつの影響だよ」
そう言って、体を不自然に動かす。
隣の清水は動けない。私の見立てでは天葉でもおかしくない彼が、だ。
こいつは危険だ。おそらく他の色と同レベルの強さだ。
そして、普通の人間にも見える。この状況でなかったら、魔である確信は持てない程だ。
もしかしたら、普段は人間に紛れて生活しているのかもしれない。
「君に仲間はいるのかい?」
相手は警戒していない。今のうちに、情報を引き出せるだけ出したい。
「いるよ!世界中にね!みんな優しいんだぁ、人間とは違って!だからさーー」
焦らすように目線だけをこちらに向けてニヤついている。
それにしても、とんでもないことになっているようだ。
彼のように知性を持った魔が、そんなに多くいるとは。
昔から、そのような魔はいたにはいた。ただ、数百年に一人しか見ないほどに少なかったはずだ。
根城を案内させるのがいいか、それともここで殺すべきか迷っていると、彼が口を開いた。
「ーー壊すんだ、全部。そして、僕たちだけの世界を作るんだ!」
ーー世界中の同じ知性を持った魔が徒党を組めば、世界に厄災が降りかかるだろう。
「ここに貼られた結界に、そろそろ七華の人間がくると思っていたから待ってたんだよ」
そう言って、少年が指を鳴らす、樹氷の影からさらに二人出てきた。少年とは違い、大人の姿をしている。
一人は目が閉ざされていて、もう一人は、耳がなかった。目から下は布で隠れている。
ーー少年と同等の力を感じる。
そして、その手にはーー
先ほど別れた、四人が引きずられていた。致命傷とまではいかないが、深傷を負い、意識を失っているのが見える。
「これは、宣戦布告だよ」
少年が静かにそう言う。その静けさが、恐怖を倍増させている。
「そうだ!僕たちは君たち七華を潰す者として、「黒」とでも名乗ろうかな!いいでしょ!?」
隣に並ぶ二人に同意を求める。その姿は、まるで親子のようにも見えた。
「今回は一人生き残ってくれたらいいかな。伝言役はそんなに要らないし」
そう言って、引きずっていた四人をこちらに投げる。
そして次の瞬間、周りに轟音が走った。
樹氷が動き出す。
少年は、背を向ける。
「また会えたら遊ぼうねー」
私の周りには動けない四人。この状況で彼らを追うのは無理だ。
「…ねぇ」
私は彼らに声をかける。
「次に会ったら、君たちぜーんぶ、壊してあげるよ」
怒りではない。なんの感情のなく、そう言った。
私も圧をかける。周囲の樹氷の動きが、止まる。
少年はこちらを振り向き、少し驚いた顔をした後、悪魔のような笑みを浮かべた。
そして一言。
「楽しみにしてるよ」
その言葉と同時、風が吹き、彼らの姿が消えた。
ーー少年は、紫と離れた後、独り言をぶつぶつと言っていた。
「そっか…あれが…「母様」なんだ……!あの圧、あの空気!間違いない!」
少年はただ笑う。
その声が、冬の雪山に響く。静寂を切り裂くように。




