表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ARCANE:武装世界 -NULLIFY-』  作者: 天照 珠李
機構帝国騎士団編II

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/129

ー適性者の選別ー


中央機構・選別区画は、騎士団本部の地下にあった。


普段は立ち入り禁止。

存在だけは知られているが、中で何をしているのかは誰も詳しく語らない場所。


厚い隔壁が閉まる音が、背後で鈍く響いた。


案内されたのは、円形の検査室。

壁一面に錬金式が刻まれ、中央に金属製の台座が一つだけ置かれている。


余計な装飾はない。

祈りも紋章もない。


ただ、機能だけの部屋。


「順番に前へ」


機構職員の指示で、選抜対象者が列を作る。


十数名。

盾部隊、槍部隊、銃部隊、そして少数の独立任務騎士。


レインもその中にいた。


最初の騎士が台座に立つ。


足元の刻印が淡く発光し、細い光の輪が体をなぞるように上昇していく。

頭頂まで到達した瞬間、壁面に数値と波形が走った。


「……適性なし。次」


あまりにも早い。


騎士は何も言われないまま脇へ退かされる。

失格、という言葉すら出ない。


二人目。


「適性:低。補助要員候補」


三人目。


「適性:なし」


四人目。


「適性:中。後方観測候補」


淡々と処理されていく。


選別というより、仕分けだ。


人間を。


資材みたいに。


レインは無意識に、拳を開いて閉じた。


(何を見てるんだ……こいつら)


能力か。

武器適合か。

それとも別の何かか。


やがて、自分の番が来る。


台座の上に立つ。


金属の冷たさが靴越しに伝わる。


「静止」


光が足元から立ち上がった。


細い線が、脚、胴、腕、首へと走る。

皮膚の上ではなく、もっと内側を覗かれているような感覚。


心臓が一拍、強く跳ねる。


その瞬間。


光の色が、わずかに変わった。


白から――薄い蒸気色。


壁面の数値が、一斉に跳ね上がる。


室内の空気が微妙にざわついた。


職員の一人が端末を覗き込み、初めて声の調子を変えた。


「……反応あり」


別の職員。


「コア共鳴率、基準値超過。

武装固有波形……未登録型」


未登録。


その言葉が、胸の奥に刺さる。


光が胸元で一度だけ強く脈動した。


まるで、《ロジカ》の鼓動と同期したみたいに。


(……今、剣が……)


何かが触れた気がした。


記憶の底を、薄く引っかくような違和感。


一瞬だけ。


見たこともない景色が脳裏をよぎる。


暗い施設。

回る錬金炉。

誰かの声。


――「この子は……」


そこで映像は途切れた。


光が消える。


静寂。


壁面に表示された最終判定が、ゆっくり固定される。


適性:高

分類:探索先行要員

備考:中央機構審査対象


室内が小さくどよめいた。


高適性。


しかも備考付き。


職員がレインをまっすぐ見る。


仮面の奥の視線だけが、妙に生々しい。


「台座から降りろ」


短い命令。


レインは無言で従い、列の外へ出た。


背中にいくつもの視線が刺さる。


羨望。

警戒。

不安。


どれも慣れているはずなのに、今日は違った。


(中央機構審査対象って……何だよ)


残りの選別も終わり、対象者は最終的に七名に絞られた。


そのうち、


先行探索要員:三名

後方支援:四名


レインは当然のように、前者に入っていた。


職員が端末を閉じる。


「以上で適性測定を終了する」


淡々とした声。


「先行探索要員には、個別ブリーフィングを実施。

本任務は機密指定とする」


一拍。


「なお」


わずかに間を置いてから続ける。


「本選別結果は、中央機構の過去記録と照合済みである」


レインの喉がわずかに鳴る。


過去記録。


「特に――」


職員の視線が、はっきりレインに向いた。


「被験記録との一致率が高い者については、追加監査を行う」


被験。


その単語だけ、温度が違った。


周囲の騎士がざわつく。


「……被験って何だ?」


「過去記録って……」


だが職員はそれ以上説明しない。


「質問は受け付けない。

任務前に必要な情報のみ開示する」


完全に、線を引く言い方。


知らなくていい。

いや。


知らないまま行け、という命令。


解散の指示が出る。


騎士たちがばらばらに部屋を出ていく中、レインだけが呼び止められた。


「レイン」


振り向く。


仮面の職員が一人、近づいてくる。


小さな金属タグを差し出した。


黒地に、中央機構の刻印。


裏面には短い番号。


「これは?」


「先行探索要員識別タグ。常時携行しろ」


受け取った瞬間、タグが微かに温かくなる。


まるで体温を読んでいるみたいに。


「紛失するな」


職員はそれだけ言って、踵を返す。


去り際、ぽつりと。


「……やはり生き残っていたか」


ほとんど独り言みたいな声。


だが、確かに聞こえた。


「待て」


思わず呼び止める。


職員は立ち止まらない。


「今の、どういう意味だ」


返事はない。


ただ、扉の前で一瞬だけ横顔を向け、


「任務に集中しろ、先行要員」


それだけ残して出ていった。


隔壁が閉まる。


重い音。


残された静寂。


レインは手の中のタグを見下ろした。


黒い金属。

無機質な番号。


そして胸の奥に残る、さっきの違和感。


暗い施設。

回る炉。

誰かの声。


(……俺は)


考えかけて、止める。


今はまだ、繋がらない。


でも一つだけ確かなのは。


この遠征は、ただの任務じゃない。


自分自身の過去に触れる旅になる。


そんな予感だけが、やけに重く沈んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ