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『ARCANE:武装世界 -NULLIFY-』  作者: 天照 珠李
機構帝国騎士団編II

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ー中央機構の命令ー


招集は、夜明け前に出た。


騎士団本部・第一会議室。

通常なら中隊長以上しか入れない部屋に、今日は現場任務の騎士まで呼ばれている。


理由は一つ。


中央機構直通。


その言葉だけで、誰も遅れなかった。


重い扉が閉まり、外の音が完全に遮断される。

室内中央の円卓の上に、蒸気投影機が低く唸り始めた。


白い光が立ち上がり、空中に立体地図が浮かぶ。


王都。

境界線。

観測所。


そして――赤い点。


昨日見た印と同じ場所。

北東、南西。


さらに今朝追加されたらしい、三つ目の点が南方に浮かんでいる。


ざわめきが広がる。


「静粛に」


上官の声と同時に、投影機の光が一段強くなった。


地図の上に、無機質な声が重なる。


感情のない、合成されたような声。


「中央機構より通達。

全騎士団員は記録を開始」


誰も姿は見えない。

だが、この声が中央そのものだと分かる。


「これまで敵性存在レリクトの発生は、局地的災害として処理されてきた。

討伐・封鎖・回収。

その優先順位は変わらない」


一瞬の間。


「――ただし、本日より例外を設ける」


地図が切り替わる。


赤い点を線が結び始める。

北東から南西へ。

そこから南方へ。


三点を結ぶと、歪んだ三角形になる。


その中心。


ゆっくりと、黒い円が浮かび上がった。


「これらの発生点は、単独現象ではない。

相互に関連する“座標群”と認定する」


室内が静まり返る。


「当該座標群を、今後――」


ほんの一瞬、機械音が混じる。


「七罪関連座標と呼称する」


空気が凍った。


誰もその言葉を復唱しない。

だが、全員が聞き逃さなかった。


七罪。


それは噂の中にしかなかった単語だ。

敵性存在レリクトのさらに上位。

原因。

思想。


実在を公式に認めたことなど、一度もなかった。


「本座標群に対する対応方針を更新する」


地図の赤点の周囲に、新しい指示が表示される。


討伐:保留

封鎖:最小限

回収:限定


そして。


探索:最優先


誰かが息を呑む音がした。


探索。


討伐ではない。


「中央機構は判断する。

現象の根源は、個体ではなく構造にある」


無機質な声は続く。


「よって、今後の任務は敵性存在の殲滅ではなく、

座標の調査・内部構造の確認・情報回収を主目的とする」


レインは無意識に拳を握っていた。


殲滅じゃない。

調査。


つまり――


「必要に応じて、敵性存在との交戦は許可する。

ただし目的は排除ではなく突破」


投影地図の中央、黒い円がゆっくり脈動する。


まるで心臓みたいに。


「各騎士団より遠征部隊を編成。

選抜基準は既に算出済み」


円卓の周囲に、小さな光が点き始める。


一つ。

また一つ。


座っている騎士の前に、淡い光の札が浮かぶ。


選抜対象。


名前が表示される。


室内に、低い緊張が広がる。


レインは自分の前を見ないようにしていた。


まだ早い。

これは上位部隊の話だ。

自分が呼ばれる理由は――


ふっと、目の前に光が灯った。


反射的に視線を落とす。


そこに浮かんでいたのは。


レイン / 適性:確認済


一瞬、意味が分からなかった。


(……適性?)


その表記は、見慣れない。


階級でも、所属でもない。


ただ、それだけ。


確認済。


心臓が一拍遅れて強く鳴る。


周囲を見回すと、同じように札を見つめて固まっている騎士が何人かいる。

だが、全員ではない。


選ばれていない者の前には、何も出ていない。


「選抜対象者は、本通達後、個別命令を受領せよ」


中央の声が締めくくる。


「繰り返す。

本任務の目的は探索である。


七罪関連座標の内部に存在するものを確認し、

その“構造”を記録せよ」


最後に、わずかな間。


「――これは、国家防衛任務であると同時に」


機械音がわずかに歪む。


「維持任務である」


維持。


その単語だけ、妙に重く落ちた。


何を。


国家を?


それとも――


別の何かを?


投影が消える。


部屋に残るのは、蒸気機の余熱音だけ。


「……解散」


上官の声で、ようやく皆が動き出す。


椅子が引かれ、扉が開き、ざわめきが廊下に流れ出す。


レインは立ち上がれずにいた。


目の前の光の札は、まだ消えていない。


適性:確認済


その文字が、焼き付いたみたいに離れない。


(いつ確認された)


(何の適性だ)


(俺は――)


背後から、低い声。


「お前もか」


振り返ると、同じ隊の騎士が苦い顔で自分の札を指している。

そこにも、同じ表記。


「適性って何だよ……

こんなの、今まで」


言葉は最後まで続かなかった。


廊下の向こう、別の出入口が静かに開く。


黒衣の機構職員が数名、無言で立っていた。


顔は半分仮面で隠れ、胸元に中央機構の紋章。


「選抜対象者はこちらへ」


感情のない声。


拒否する余地など、最初からない。


レインは一度だけ、会議室の窓の外を見た。


夜明けの光が、王都の屋根を白く染め始めている。


整然とした街。

統制された朝。


何も変わっていないように見える。


けれど。


(もう、戻れない流れが動いてる)


理由は分からない。


でも確信だけはあった。


敵性存在レリクトの増加も。

七罪関連座標も。

この“適性”という言葉も。


全部、同じ線の上にある。


レインは前を向き、機構職員の方へ歩き出した。


扉の向こうは薄暗く、奥が見えない。


その暗闇に踏み込む瞬間、胸の奥で小さく何かが軋んだ。


まるで――


ずっと前から、ここに来ることが決まっていたみたいに。

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