ー機構騎士ー
王都外縁・騎士団機構区画。
朝の霧の中、金属音が規則的に響いていた。
蒸気排出弁の開閉音。圧力計の振動。重い歯車が噛み合う低音。
ここは通常の訓練場ではない。
帝国騎士団・機構部隊専用格納棟。
レインは整備兵に案内され、巨大な鋼鉄扉の前に立っていた。
「本日、統制命令により閲覧許可が下りました」
整備兵が端末を操作すると、扉がゆっくりと開く。
蒸気が白く噴き出し、内部の影が姿を現した。
⸻
そこに並んでいたのは――
騎士ではなかった。
機械だった。
全身を蒸気装甲で覆われた重装兵。関節部には圧力管。背部には大型ボイラー。胸部中央には錬金炉の光。
人が中にいるのか、それとも完全機構なのか、一目では判別できない。
だが――
動いた。
金属の足が床を踏み鳴らし、統一された角度で整列する。
「帝国騎士団機構中核部隊。 正式名称、機構騎士。」
レインの横に立った副官が淡々と説明する。
「蒸気兵装による出力増幅。 錬金装備による戦闘最適化。 統制命令による意思同期。」
副官は一瞬だけ視線を機構騎士へ向けた。
「彼らは“命令に迷わない”。」
⸻
一体の機構騎士が前へ出る。
胸部の錬金炉が強く発光した。
「統制コード確認。 対象:レイン剣士。 体制所属確認済み。」
機械的な音声。
感情はない。
ただ、認識された。
レインは無意識に剣へ手を添える。
その瞬間。
機構騎士の背部ボイラーが唸り、圧力弁が開く。
蒸気噴出。
次の瞬間、床が砕けた。
一歩。
それだけで、訓練場の石板が陥没する。
「……」
レインは息を呑む。
強い。
戦闘経験で理解する。
この出力は、個人の武装属性の域を超えている。
「実戦では小隊単位で行動します。 統制命令は中央機構から一括送信。」
副官は続ける。
「判断遅延ゼロ。 恐怖反応なし。 疲労なし。」
静かな声。
「帝国が本気で鎮圧する場合、 まず彼らが動きます。」
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レインは機構騎士の列を見る。
整列。沈黙。発光する炉心。
その光は、どこか“生き物の目”に似ていた。
だが違う。
これは意志ではない。
仕組みだ。
帝国は――
騎士を強くしたのではない。
戦争を、機構化したのだ。
⸻
「あなたも、いずれ前線で共闘することになります」
副官の言葉。
「体制側の剣として。」
レインは答えない。
ただ機構騎士を見続ける。
その整列は、守るための戦力には見えなかった。
統制するための力。
逆らわせないための力。
王都を守る軍ではなく、
王都を縛る装置。
⸻
格納棟を出ると、朝霧はすでに晴れていた。
遠くに王城が見える。
静かで、美しい。
だが今は、その下にどれだけの機構が眠っているのかを知ってしまった。
「……これが」
レインは小さく呟く。
「帝国の本気か」
その声は、風に消えた。
だが胸の奥には残る。
剣として立つ場所。
その背後にあるもの。
それを、初めて理解した。
⸻
同刻。
王城深部・非公開区画。
暗い部屋の中。
観測用端末に、機構騎士の起動ログが表示されていた。
「中核部隊、正常稼働」
誰かが記録する。
「剣士レイン、閲覧完了」
別の声。
「反応は?」
「警戒。 理解。 従属傾向、維持。」
短い沈黙。
やがて低い声が落ちる。
「良い。 剣は、自分の重さを知った方が折れにくい」
端末の光が消える。
最後に残ったのは、ただ一つの表示。
【統制段階:次段階移行準備】
⸻
王都の空は、どこまでも静かだった。
だがその静けさは、守られているからではない。
制御されているからだと、
レインだけが、まだ言葉にできずにいた。




