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『ARCANE:武装世界 -NULLIFY-』  作者: 天照 珠李
機構帝国騎士団編 Ⅰ
41/92

ー機構騎士ー


王都外縁・騎士団機構区画。


朝の霧の中、金属音が規則的に響いていた。


蒸気排出弁の開閉音。圧力計の振動。重い歯車が噛み合う低音。


ここは通常の訓練場ではない。


帝国騎士団・機構部隊専用格納棟。


レインは整備兵に案内され、巨大な鋼鉄扉の前に立っていた。


「本日、統制命令により閲覧許可が下りました」


整備兵が端末を操作すると、扉がゆっくりと開く。


蒸気が白く噴き出し、内部の影が姿を現した。



そこに並んでいたのは――


騎士ではなかった。


機械だった。


全身を蒸気装甲で覆われた重装兵。関節部には圧力管。背部には大型ボイラー。胸部中央には錬金炉の光。


人が中にいるのか、それとも完全機構なのか、一目では判別できない。


だが――


動いた。


金属の足が床を踏み鳴らし、統一された角度で整列する。


「帝国騎士団機構中核部隊。 正式名称、機構騎士。」


レインの横に立った副官が淡々と説明する。


「蒸気兵装による出力増幅。 錬金装備による戦闘最適化。 統制命令による意思同期。」


副官は一瞬だけ視線を機構騎士へ向けた。


「彼らは“命令に迷わない”。」



一体の機構騎士が前へ出る。


胸部の錬金炉が強く発光した。


「統制コード確認。 対象:レイン剣士。 体制所属確認済み。」


機械的な音声。


感情はない。


ただ、認識された。


レインは無意識に剣へ手を添える。


その瞬間。


機構騎士の背部ボイラーが唸り、圧力弁が開く。


蒸気噴出。


次の瞬間、床が砕けた。


一歩。


それだけで、訓練場の石板が陥没する。


「……」


レインは息を呑む。


強い。


戦闘経験で理解する。


この出力は、個人の武装属性の域を超えている。


「実戦では小隊単位で行動します。 統制命令は中央機構から一括送信。」


副官は続ける。


「判断遅延ゼロ。 恐怖反応なし。 疲労なし。」


静かな声。


「帝国が本気で鎮圧する場合、 まず彼らが動きます。」



レインは機構騎士の列を見る。


整列。沈黙。発光する炉心。


その光は、どこか“生き物の目”に似ていた。


だが違う。


これは意志ではない。


仕組みだ。


帝国は――


騎士を強くしたのではない。


戦争を、機構化したのだ。



「あなたも、いずれ前線で共闘することになります」


副官の言葉。


「体制側の剣として。」


レインは答えない。


ただ機構騎士を見続ける。


その整列は、守るための戦力には見えなかった。


統制するための力。


逆らわせないための力。


王都を守る軍ではなく、


王都を縛る装置。



格納棟を出ると、朝霧はすでに晴れていた。


遠くに王城が見える。


静かで、美しい。


だが今は、その下にどれだけの機構が眠っているのかを知ってしまった。


「……これが」


レインは小さく呟く。


「帝国の本気か」


その声は、風に消えた。


だが胸の奥には残る。


剣として立つ場所。


その背後にあるもの。


それを、初めて理解した。



同刻。


王城深部・非公開区画。


暗い部屋の中。


観測用端末に、機構騎士の起動ログが表示されていた。


「中核部隊、正常稼働」


誰かが記録する。


「剣士レイン、閲覧完了」


別の声。


「反応は?」


「警戒。 理解。 従属傾向、維持。」


短い沈黙。


やがて低い声が落ちる。


「良い。 剣は、自分の重さを知った方が折れにくい」


端末の光が消える。


最後に残ったのは、ただ一つの表示。


【統制段階:次段階移行準備】



王都の空は、どこまでも静かだった。


だがその静けさは、守られているからではない。


制御されているからだと、


レインだけが、まだ言葉にできずにいた。


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