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『ARCANE:武装世界 -NULLIFY-』  作者: 天照 珠李
機構帝国騎士団編 Ⅰ
38/68

ー統制下の王都ー

王都は守られた。


だが、それは終わりではない。


南区画の犠牲を境に、帝国は静かに姿を変え始める。

騎士団は「守護者」から「統制装置」へ。

王城は理想より秩序を選び。

地下では、封鎖されていた機構が動き出す。


この章から物語は、王都の外縁ではなく

帝国そのものの内部構造へと踏み込んでいきます。


正式に戦術権限を持つ騎士となったレイン。

国家と距離を置き始めた王女エリス。

七つの大罪に属しながら独自に動くアッシュ。


三人はまだ同じ世界にいる。

だがもう、同じ立場にはいない。


それでも戦いは続く。

なぜなら帝国には、まだ表に出ていない“敵”がいるからだ。


――これは、機構に組み込まれた正義と、

そこから外れた人間たちの物語。


機構帝国騎士団編、ここから開始。


第一章「統制下の王都」


王都の朝は、静かすぎた。


人の声より先に響くのは、金属音。


規則正しく鳴る鎧の擦れる音。

交差点ごとに立つ盾。

視線を動かすたび、槍の穂先が光る。


守られている――

そう言うには、あまりに息苦しい配置だった。



不可逆。


あの戦いの後、王都は変わった。


いや、正確には

隠していた本来の姿を露わにした。



広場中央。


巨大な蒸気塔の圧力弁が開き、白煙が空を裂く。


同時に、鐘が三度鳴る。


それが今の王都における

「平常稼働」の合図だった。



「……配置、完了しました」


低い報告。


バスティオン隊の盾が一斉に地面へ打ち込まれる。

逃げ道を塞ぐ壁の音。


続いて、パイクライン隊が隊列を整える。

通路は一本に限定される。


市民は、その細い通路を

無言で歩かされていた。


検査でもない。

取り締まりでもない。


ただ

「流れ」を管理するためだけの整列。



王都はもう


治安維持の都市ではなく

運用される装置だった。



騎士団本部。


石造りの重い扉の前で、レインは立っていた。


精密剣ロジカは腰に。

無駄な装飾はない。

刃も鞘も、ただ機能だけが存在する。


扉の向こうから声。


「入れ」



室内は広く、冷えていた。


机の向こうに立つのは

帝国騎士団長 レオンハルト=グレイヴ。


視線は鋭いが、敵意はない。

ただ、測っている。


「レイン」


短く名を呼ぶ。


「貴官を、正式に任務へ編入する」


沈黙。


「本日付で、帝国騎士団エンギア直属

特務運用剣として登録された」


紙が一枚、机の上を滑る。


そこに書かれているのは

配属でも階級でもない。


役割。


――体制側戦術剣。



レインは紙を見る。


表情は変わらない。


「……了解」


それだけ言う。



レオンハルトは続ける。


「任務は単純だ」


「王都内の統制補助。

逸脱個体の排除。

必要なら、騎士団の行動を“固定”しろ」


固定。


つまり

戦場を止めろ、という意味。



「質問は」


「ありません」


即答。



レオンハルトは、わずかに目を細める。


「……迷いはないのか」


ほんの一瞬。


レインの視線が窓へ向く。


外では、市民の列が続いている。

盾の壁に挟まれたまま。


「迷いは」


静かに言う。


「判断精度を落とします」



それは肯定でも否定でもない。


ただの事実。



レオンハルトは小さく息を吐く。


「そうか」


「ならいい」


「剣は、振るわれている間だけ意味を持つ」


「抜かれた理由は、後から付いてくる」



任務書が閉じられる音。


「行け、レイン」


「王都はもう――」


一瞬、言葉を選ぶ。


「守る場所ではない」


「止め続ける場所だ」



廊下に出る。


重い扉が背後で閉まる。


その瞬間。


遠くで警報が鳴った。


短く、鋭い、機械的な音。



〈王都第三区画〉

〈統制ライン逸脱〉

〈未登録武装反応〉



騎士たちが一斉に動く。


フリント隊が装填。

レンジアーチ隊が屋根へ走る。

盾が再び打ち込まれる。


完全に訓練された

装置としての反応。



レインは立ち止まらない。


歩きながら、《ロジカ》の柄に触れる。


刃は抜かない。


まだ、必要ない。



ただ一言だけ、呟く。


「……統制、か」


感情は乗らない。


だがその足取りは

すでに戦場へ向いていた。



王都は今日も動いている。


人の意思ではなく。

仕組みとして。


そして今―


その中心に

一本の剣が組み込まれた。

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