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『ARCANE:武装世界 -NULLIFY-』  作者: 天照 珠李
交差する因果編III
36/52

ー取り返しのつかない結果ー


夜明け前の王都は、妙に静かだった。


静けさは、嵐の前触れに似ている。

レインは城壁上の監視路を走りながら、その不気味さを振り払えなかった。


「南区画で反応再増大! 数、予測の三倍以上!」


伝令の声が裏返る。


三倍。

その数字に、背筋が冷えた。


「避難は?」


「まだ半数以上が区画内です! 騎士団が防衛線を張っていますが――」


遠くで、鈍い衝撃音。

石造りの建物が崩れる低い振動が、足裏に伝わってきた。


間に合わない。


レインは地図を広げる。

南区画は古い街路で、通りが狭い。群れに入り込まれれば、騎士団でも押し返せない。

だが一つだけ、手があった。


区画中央の蒸気導管制御塔。

あそこを強制解放すれば、過剰蒸気を一気に噴出させられる。高温高圧の蒸気は、《レリクト》の群れを焼き払い、足止めできる。


ただし――


「……被害範囲は」


小声で自分に確認する。


半径三百。

逃げ遅れがいれば、無事では済まない。


別の騎士が叫ぶ。


「このままじゃ防衛線が破られます! 中心街に入られたら、被害はこんなものじゃ……!」


中心街には、まだ何万人もいる。


選べ。


ここで止めるか。

中枢まで通して、もっと多くを危険に晒すか。


喉が渇く。


レインは、強く目を閉じた。


(守るための力だろ)


昨日の、アッシュの声が蘇る。


倒さなきゃ、もっと人が死ぬ。


レインは目を開ける。


「……制御塔を解放する」


周囲が一瞬、凍りつく。


「しかし、あそこにはまだ避難が――」


「分かってる!」


思わず声が荒れる。

すぐに息を整え、低く言い直した。


「このまま突破されたら、王都が終わる。ここで止めるしかない」


沈黙。


やがて、副官が歯を食いしばって敬礼した。


「……了解。蒸気導管、強制解放準備!」


決断は、下された。



制御塔のバルブが回される。


重い金属音。

圧力計の針が限界域へ振り切れる。


南区画の中央。


押し寄せる《レリクト》の群れが、騎士団の盾列を崩しかけていた。


「持たない! 後退――」


その瞬間。


地面の格子孔という格子孔から、白い奔流が噴き上がった。


轟音。


視界が真っ白に染まる。

超高温の蒸気が街路を埋め尽くし、最前列の《レリクト》が焼け崩れる。

皮膚が裂け、骨が露出し、黒い靄が蒸発する。


効果は、絶大だった。


群れが止まる。

後続も足を止め、混乱が広がる。


「……やった……」


誰かが呟く。


だが次の瞬間、蒸気の向こうから――


悲鳴。


人の、悲鳴だった。


「まだ中に人がいる! 子供が……!」

「助けてくれ!!」


白煙の中で、影が倒れる。

避難しきれていなかった市民。

導管近くの詰所に残っていた兵。


高温蒸気は敵味方を選ばない。


「止めろ……止めろおお!!」


現場の騎士が叫ぶが、もう止まらない。

一度解放した圧は、規定量を吐き出すまで閉じられない仕組みだ。


城壁上で、その報告を聞いた瞬間。


レインの手から、通信管が滑り落ちた。


耳鳴り。


何か言われている。

だが言葉として入ってこない。


ただ断片だけが刺さる。


「南区画……被害多数……」

「騎士団、第二小隊……壊滅……」

「民間人も……相当数……」


足が、動かない。


自分が決めた。

自分が、命じた。


蒸気が晴れ始めた頃には、《レリクト》の群れは確かに沈黙していた。

だが同時に、街路には焼け焦げた遺体が幾重にも横たわっていた。


敵も。

兵も。

市民も。


区別がつかないほど、同じように。


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