プロローグ ―始動の残響―
この物語の世界では、
人は生まれながらに価値を持っているわけではありません。
剣を握れるか。
銃を扱えるか。
あるいは――武器そのものになれるか。
それだけが、生きる理由として認められています。
けれど、もし。
武器を持たないことを選んだ人間がいたら?
武器を否定する意思を持った者が現れたら?
この物語は、
そんな「世界にとっての異物」から始まります。
正義を信じる者。
怒りに縛られた者。
誰が正しく、誰が間違っているのか。
その答えは、最初から用意されていません。
ページをめくるあなた自身が、
この武装世界で何を選ぶのか。
それを確かめるために
どうか、物語の中へ踏み込んでください。
世界は、武器で回っている。
それは比喩ではなく、事実だった。
剣を持たぬ者は守られず、
銃を持たぬ者は選ばれず、
武器を生み出せぬ者は、やがて「素材」として消えていく。
この機構帝国エンギアにおいて、
人の価値とは、武器になれるかどうか―それだけで測られていた。
帝国の中心部。
錬金工房の地下深く、赤い警告灯が不規則に脈打っている。
「……また失敗作か」
低く吐き捨てる声。
憤怒の幹部、アッシュは、
足元に転がる“それ”を見下ろしていた。
かつては人だったもの。
錬金に失敗し、意思も言葉も失った存在―
《敵性存在》。
アッシュの手に握られた銃が、かすかに震える。
感情反応銃。
彼の怒りに共鳴するかのように、
銃身の生体組織が脈打ち、赤黒い光を灯す。
「……黙れ」
誰に向けた言葉でもない。
それでも《ハウル》は、確かに応えた。
引き金を引く。
轟音。
燃え上がる感情が弾丸となり、
レリクトの核を貫いた。
崩れ落ちる残骸。
それを見ても、アッシュの胸は満たされない。
―怒らなきゃ、生きてる意味がない。
それが、彼に与えられた思想だった。
七つの大罪。
世界を支配する“武装思想”の象徴。
アッシュは、その一角―憤怒に仕える幹部である。
だが。
「……本当に、これが正しいのか?」
誰にも聞かせぬ疑問が、
一瞬だけ、胸をよぎった。
その頃、帝国の外れ。
瓦礫と錆に覆われた旧市街で、
一人の少年が、血に濡れた武器を見下ろしていた。
名は、レイン。
手にしているのは、
本来なら適合者を選ぶはずの武器。
しかし彼は―
迷いなく、それを使いこなしていた。
「……人は、武器なんかじゃない」
誰に教えられたわけでもない言葉。
それが、彼の中から自然と溢れ出る。
だが、この世界では―
その考えこそが、異常だった。
武器を否定する少年。
怒りを燃料に生きる幹部。
まだ交わらぬ二つの存在が、
同じ時代に、同じ世界で息をしている。
歯車は、すでに回り始めていた。
やがてこの世界は問われる。
武器か……意思か……
その答えを知る者は、
まだ誰もいない。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
このプロローグでは
まだ世界の全ては語られていません。
七つの大罪も、帝国の真実も、
そして登場人物たちの選択の意味も
ほんの一部が、顔を覗かせただけです。
それでも、
「武器に頼らず生きることはできるのか」
「正義と狂気は、どこで分かれるのか」
そんな問いが、少しでも心に残っていたなら、
この物語はすでに動き始めています。
レインは、まだ人を救えません。
アッシュは、まだ怒りを手放せません。
彼らが選ぶ未来は、
決して綺麗な答えにはならないでしょう。
それでも
武器のない世界を思い描くことだけは、
誰にでもできるはずです。
次のエピソードでは、
彼らの意思が、さらに強く衝突していきます。
その先で、
あなたがどんな答えに辿り着くのか。
また、この世界で会えることを願っています。




