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地味な部下の正体は誰にも頼ることのできなかった初恋の人でした  作者: モハチ


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9/19

第9話:セラピー

(とうとうこの日が来てしまった!!)


 出勤したアレックスは胸を押さえ、緊張を誤魔化そうとしていた。あの日、ユリアナに真剣な話をされてから、その話については触れることないまま数日間、通常業務を行っていた。話すことは仕事のことのみであった。

 悶々とした日々を過ごしていたが、今日は待ちに待った動物セラピーの日だった。心に深い傷を負ったであろう孤児のもとを動物たちと共に訪問し、少しでも何かを感じてもらえるように支援するのが目的だ。その訪問はユリアナと2人で行くことになっていた。


(俺は、ユリアナと真剣な話をしたい。彼女がどうしてあのように思っていたのか。そして、俺は話をされてどうしていきたいと思ったのかを・・一緒に話していきたい。)


 自身のデスクで今日行く孤児院の資料をみながら、インコのピーちゃんとゴールデンレトリーバーのレントに餌をやり、移動の準備をしていた。

 出勤時間ギリギリの時間。いつも通りユリアナが出勤してきた。


「おはようございます!」

「「おはよう」」


 ユリアナはいつも通りいったん自身の席に向かい、今日の仕事の準備をしていた。アレックスはその姿を目の端に入れながらマークに職場での仕事内容について打ち合わせを行った。



「それでは行ってきます。」

「お二人さん、ぴーちゃん、レントいってらっしゃい!気を付けてね~!」


 2人と1匹と1羽はマークにお見送りされながら動物セラピーのため移動を開始した。動物を乗せるため、今回は馬車での移動となる。いつもはアレックスの言うことを積極的に聞こうとしないピーちゃんだが、仕事モードなのか静かだった。


 しーん

 沈黙が流れる。

 2人がそれぞれ緊張していることの表れだった。


(こんな時に、いつもやかましいピーちゃんが何も歌ったり踊ったりしないなんて・・!!)

(所長、すごい真剣な表情で外を見ているわ・・今日のセラピー大丈夫かしら・・)


 ユリアナは動物セラピーに参加するのは初めてだったので、アレックスのことだけではなく、動物セラピーに対してドキドキしていた。


(今回が初の動物セラピー・・一体どういう風に動物たちは関わるのだろうか・・)


 動物たちの負担軽減のため、遠方にはいかない仕組みになっており、1時間ほど馬車移動をし、孤児院へ着いた。前回行った、視察をした孤児院とはまた違う雰囲気のある孤児院だった。


「ユリアナさん。着きましたよ。セラピーの場所です。」

「所長、ありがとうございます。・・ここが、そうなんですね・・。」


 前回は外で遊ぶ子供たちの声が、孤児院に着く前から聞こえてきていたが、今日は全く聞こえない。孤児院の前で院長がアレックスたちを待っていた。


「ようこそお越しくださいました。今日もよろしくお願いします。」

「ああ。出迎えありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。・・ところで今日は子供たちはどこにいるんですか?」

「今日はあちらでみんな各々活動をしています。」


 スッと院長が指を差す。庭からも入れるようになっている少し大きめな部屋。日光が差し込み、一部木が影を作っている。外に数人、石を使って積み上げている子がいたり、中で本を読んでいる子もいる。各々好きなことをして遊べているようだった。

だが違うところに視線をやると、数人の子供は職員にしがみついて動かない子や

部屋の隅っこに座ってボーっとしている子、壁に頭をつけて動かない子もいた。


「前よりみんな活動的になりました。職員に気持ちを吐き出すことや、甘えることができるようになってきている子もいます。・・少しずつですが、離れる時間も多くなってきました。」

「そうですか。それは良かったです。・・あの子は新顔では・・?」

「そうなんです。ここのことを知っている近隣の方が連れてきました。路上で動かない子がいると。」

「路上ですか・・。」

「ええ、今までどうやって過ごしていたのかは分からなくて。あの子自身も話そうとしないものですから・・」


 壁に頭をつけ動かない子を見る。顔は全く見えないが、栄養状態は悪いのはすぐわかった。清潔になっており、特に汚いところはないが、腕をしきりに掻く様子がある。


 ユリアナはその子をじっと見ていた。


(アルトは、人を避けることはあっても、身だしなみだけは綺麗だった。また違う子供たちがああやって知らない間に虐げられているのね・・。)


 会う子供たちを、アルトに投影する癖が自分にあることを気づき反省した。ここの孤児の子たちにできることをしようと、改めて思った。


「そしたら行こうか。ピーちゃん、レント。今日はよろしくな。」

「ワン」

「ピィッ」


 1匹と1羽は子供たちに駆け寄った。

 動物セラピーを複数回受けている子たちは、声を聞いてパッとこちらを向き、職員から離れ近寄ってきた。

 ピーちゃんは設置されているピアノの上に掴まり、歌を歌い始めた。それを見た子が、稚拙ながらもピーちゃんに合わせて鍵盤を弾き始めた。ピーちゃんのおかげで、歌に興味が出てきた子もおり、楽譜を見ながら一緒に歌い始めている子もいた。

 レントは子供たちに抱きしめられたり、撫でられていた。一通り撫でられた後、レントは隅にいる子の所にゆっくり近づいた。


「ワン・・」

「・・・」


 隅に座っている子はゆっくりレントの方を見て、そのまま目線をずらすことなく止まった。初めて見たゴールデンレトリーバーで、毛並みが綺麗に輝き、人間とは違う、黒い、キラキラした綺麗な瞳で自分の方を見ているからだ。


「・・・」


 レントはしばらくしてからその子の隣に寝そべった。

 隣に座ってくれたことで、じんわりと心が温かくなるのを感じ始めていた。そっと手を伸ばす。ふわっとした毛並みと暖かさが手のひらに伝わる。


 ぼーっとしていた子の顔が少しだけ緩んだのが見えた。

 少し離れたところでアレックスとユリアナはその光景を見ていた。


「これが動物セラピーなんですね。」

「レントはとてもやさしい子で、また察しが良いんだ。自分がどこに行くべきなのか

、人間並みに分かっている気がする。本当に頭が上がらないよ。」

「本当ですね。」

「ピーちゃんは、歌手みたいなもんさ。ピーちゃん自身が楽しんでいる感じもするんだ。」

「本当ですね・・こんな光景初めて見ました。」


 ユリアナはこの動物セラピーを見て感動していた。

 人間に恐怖心を抱いてしまった子供が、心を開き始める瞬間を目の当たりにできたからだ。

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